解析が終わるまでの数分、何となくLinkedInを開いたら、昔の同期の転職報告が流れてきた。
海外拠点への異動、新しい会社でのポジション、昇進の報告。画面を閉じれば、自分にも午後のミーティングがあり、来期の研究テーマの話をして、いつも通り仕事に戻る。
別に、今の仕事が嫌いなわけではありません。
専門性もついた。以前より仕事もできるようになった。任されることも増えたし、ここまで積み上げてきたものにも愛着がある。
それなのに、ときどき思う。
「私、このまま今の仕事を続けるのかな」
明日辞めたいわけではないし、転職先が決まっているわけでもない。むしろ周りから見れば、それなりに順調なキャリアなのだと思います。
だからこそ、この違和感は扱いに困ります。
今がものすごく嫌なら、変える理由は分かりやすい。でも、そこまで不幸ではない。
それなのに、今とそれほど変わらない毎日が5年、10年と続いていくことを想像すると、なぜか少しだけ怖くなる。
30代でキャリアに迷うとき、私はこの「嫌ではない。でも、このままでいいとも言い切れない」という感覚が、かなり大きいのではないかと思っています。
20代までは、目の前に「次」があった
20代の頃は、今より忙しかったのに、キャリアについてはむしろ迷わなかった時期があります。
大学院にいれば、まず学位を取ることが目標になる。就職すれば、仕事を覚えることで精一杯になる。研究職なら、目の前の実験や論文、次のテーマに追われているうちに時間が過ぎていきます。
その時々に「次」がありました。
もちろん自分で選んできた道ではあるけれど、ある程度は次に進む方向が見えていて、そこへ向かって頑張ることで「前に進んでいる」という感覚を持てたのだと思います。
ところが30代になると、その「次」を誰も用意してくれなくなります。
仕事には慣れた。自分なりの専門性もできた。昔の自分が見たら、今の自分を「ちゃんとやっている」と思うかもしれない。
なのに、本人はそれほど安心していない。
むしろ、ある程度できるようになったからこそ、「で、この先は?」という問いだけが大きくなってくる。
昇進を目指すのか、専門性をもっと深めるのか、違う仕事へ行くのか、海外へ行くのか。選択肢は以前より増えているはずなのに、前より選びにくくなっていることがあります。
🌿 Marinの独り言
20代の頃は「前へ進むこと」と「自分にとっていい人生」が、かなり近い場所にあった気がします。でも30代になると、前へ進めば進むほど幸せになるとは限らないことに、少しずつ気づいてしまうんですよね。
「辞めたいわけじゃない」が、実はかなり厄介
「このままでいいのかな」と人に話すと、「じゃあ転職したら?」と言われることがあります。
でも、そこまで単純ならあまり悩みません。
今の仕事にも好きな部分があるし、一緒に働く人たちにも愛着がある。研究や専門分野そのものは面白いし、ここまで時間をかけて身につけたものもある。
だから「辞めたい」という言葉には、少し違和感がある。
一方で、「では、この仕事をあと10年続けたい?」と聞かれたら、迷ってしまう。
この中途半端さが厄介です。
大きな不満がないと、「こんなことで悩むなんて贅沢なのかな」と自分の違和感を引っ込めやすくなります。忙しい毎日に戻れば、しばらく忘れることもできます。
それでも、何かの拍子にまた出てくる。
昔の同期が転職したとき、海外で働いている人の近況を見たとき、仕事で少し嫌なことがあったとき。あるいは、何の問題もなかった日の帰り道に、突然「このままでいいのかな」と思うこともあります。
何度も戻ってくる違和感には、少なくとも「今までとまったく同じ基準では、この先を選びにくくなっている」ということが表れているのかもしれません。
もし、今の仕事には大きな不満がないのに転職サイトを何度も開いてしまうこと自体が一番気になっているなら、その感覚についてはこちらの記事で詳しく書いています。
研究職から転職したい。でも「本当に辞めたいの?」と聞かれると分からない
719では、転職するかどうかより、もう少し広い「30代になってから、キャリアの決め方そのものが変わってきた」という話をしたいと思います。
30代になると、周りが「違う人生」に見えてくる
学生時代や20代前半は、同年代の人たちとまだ似た時間を生きている感覚がありました。
同じような時期に卒業し、就職し、研究を始める。多少の違いはあっても、横を見れば何となく自分と近い場所にいる人が多かった。
30代になると、それが一気にばらけます。
研究者として専門性を極める人もいれば、企業でマネジメントへ進む人もいる。海外へ移る人、スタートアップへ行く人、研究とは違う仕事へ移る人もいる。それぞれの働き方や収入、暮らす場所までかなり違ってきます。
すると、自分が選ばなかった人生が急に見えるようになります。
企業へ行った同期を見て、「自分もあのとき違う選択をしていたら」と思う。海外に残った友人の写真を見て、「私ももっと思い切っていたら」と考える。
でも、本当にその人と同じ人生を送りたいわけではありません。
ここが面白くて、そして苦しいところです。
羨ましく見えているのは、その人の人生全部ではなく、その人が持っていて今の自分にはない何かだったりします。
裁量なのかもしれないし、収入なのかもしれない。新しい環境へ飛び込んだこと自体が羨ましいのかもしれないし、自分の時間を持っているように見えることに心が動いているのかもしれません。
だから「人と比較しないようにしよう」と思うだけでは、なかなか消えません。
他人の人生を見ながら、自分の中で何かが動いているからです。
☕ ちょっと一服
誰かを羨ましいと思ったからといって、その人になりたいとは限りません。「自分にも、ああいう選択肢がまだあるのかな」と心が反応しているだけのこともあります。30代の比較は、勝ち負けというより、自分が選ばなかった人生が急に現実味を持ち始める感じに近いのかもしれません。
仕事だけを見て決めるのが、だんだん難しくなる
20代の頃なら、「面白そうだからやってみたい」という理由だけで選べたことがあります。
でも30代になると、仕事の面白さだけでは決められないことが増えてきます。
年収が変われば暮らしも変わるし、海外へ行くなら住む場所そのものが変わります。責任の大きなポジションを選べば、仕事に使う時間も変わる。今は平気でも、5年後や10年後にどんな働き方をしていたいかまで、少しずつ気になるようになります。
人によってはパートナーとの生活や家族のことも入ってくるでしょうし、一人で生きていくとしても、どこで、どんな時間の使い方をして暮らしたいのかは無視できません。
キャリアを考えていたはずなのに、いつの間にか人生の話になっている。
これは迷走しているわけではなく、30代になって、仕事を人生から切り離して決められなくなったということなのだと思います。
研究者や理系の専門職では、特にこの変化に戸惑うことがあります。
これまでは「研究として面白いか」「専門性を伸ばせるか」という基準をかなり大切にしてきた。そこへ収入、時間、場所、暮らしといった別の基準が入ってくると、「研究への情熱が薄れたのかな」と自分を疑うことがあります。
でも、研究以外にも大切にしたいものが増えたことと、研究を好きだったことは矛盾しません。
研究は今でも好きなのに、研究職としてこの先も生きたいのかは分からない。その迷い自体が大きい方には、こちらの記事の方が近いと思います。
「研究が好き」なら、研究職を続けるべき?好きなのに離れたいと思うあなたへ
結婚や出産が気になっているなら、そこは別の記事で深く書きたい
30代のキャリアでは、結婚や出産が仕事の選択と重なる人もいます。
ただ、719でそこを全部扱ってしまうと、「30代の理系・研究職」という広いテーマと、「30代女性として仕事も家庭も諦めたくない」という別の苦しさが混ざってしまいます。
結婚や出産については、キャリアの一項目として簡単に片づけられる話でもありません。
特に、仕事では努力すればある程度前に進めたのに、恋愛や結婚、妊娠には同じようなコントロールが効かないことに戸惑う女性もいます。
友人の結婚や出産を心から喜びたいのに、同時に「私は?」と思ってしまう。仕事を頑張りたい気持ちも本物なのに、仕事だけに時間を使っていていいのか焦る。
もし今の「このままでいい?」の中心がそこにあるなら、こちらの記事にもう少し正直に書いています。
30代女性研究者、仕事も結婚も諦めたくない。「私だけ人生が進んでいない」と焦るときに
719は男性にも女性にも読んでもらえる、30代の理系・研究職全体の入口として残したいと思っています。
30代になると、「成功」の中身まで変わってくる
20代の頃は、前へ進むことそのものが成功に見えやすかった気がします。
より専門性を高めること、評価されること、年収を上げること、次のポジションへ進むこと。目に見える何かが増えていけば、自分は前進していると思えた。
もちろん30代になっても、それらが欲しくなくなるわけではありません。
私自身、仕事でもっと成長したい気持ちはありますし、より大きなことをやりたい気持ちもあります。
ただ、それだけでは「成功」と言い切れなくなってくる。
肩書きや収入を上げたい自分がいる一方で、自分の時間も欲しい。好きな場所で暮らしたいと思うかもしれないし、大切な人と過ごす時間を仕事の残り時間にはしたくないと思うかもしれない。
そうなると、「もっと上へ行けばいい」という一つの方向だけでは決められません。
これは、野心がなくなったという話ではないと思います。
むしろ、自分にとって成功と呼びたいものが増えたのだと思います。
仕事で評価されることだけを人生の点数にしていた頃より、見る項目が増えた。
だから判断が難しくなった。
🌿 Marinの独り言
30代で欲張りになったのではなく、人生を仕事だけでは見なくなったのだと思っています。仕事で成功したい気持ちと、それ以外も大切にしたい気持ちは、どちらかを消さないと成立しないものではないはずです。
「ここまで来たのに」や「次に何がしたい?」は、別の迷いとして現れる
30代の「このままでいい?」を考えていると、途中から別の怖さが顔を出すことがあります。
違うキャリアを想像した瞬間、「でも、博士まで取ったのに」「何年もこの専門をやってきたのに」と過去の自分が重くなる人がいます。
もし今の場所を離れにくい一番の理由が、「ここまで頑張ったことを無駄にしたくない」「研究職を辞めたら負けた気がする」という感覚なら、それは719で少し触れるだけでは足りません。
研究職を辞めたら負け?「ここまで頑張ったのに」と思ってしまう人へ
反対に、いろいろな可能性が気になるのに「じゃあ次に何がしたいの?」と聞かれると、何も答えられなくなる人もいます。
海外も気になる。違う仕事も面白そう。今の専門も捨てたくない。収入も大切だし、自由な時間も欲しい。
これだけ考えているのに、自分には「やりたいことがない」ように感じてしまう。
その感覚については、こちらの記事で深く書いています。
博士まで取ったのに、やりたいことがない。「次に何をしたい?」が分からないときに
そして、「このままでいい?」どころではなく、もう研究職を続けること自体がかなりしんどくなっているなら、それも別の話です。
研究職を辞めたい。でも「辞めるのは逃げ?」と思ってしまうあなたへ
同じ「キャリアに迷っている」に見えても、心の中で引っかかっている場所はかなり違います。
719では、その全部に答えを出そうとは思いません。
むしろ30代になって「このままでいい?」という問いが出てきたあと、自分の迷いがどちらへ伸びているのかによって、読んでほしい記事も変わると思っています。
キャリア迷子になったのではなく、今までの物差しだけでは足りなくなった
30代になって答えが出なくなると、「昔の方が自分は迷いがなかった」「私は何がしたいのか分からなくなった」と不安になることがあります。
でも、もしかすると自分が分からなくなったのではありません。
20代まで使ってきた物差しだけでは、今の自分を測れなくなったのかもしれません。
専門性を伸ばせるか。
評価されるか。
面白い仕事か。
そうした基準は今も大切です。
ただ、そこに自分の時間や暮らし、収入、場所、誰と生きるか、この先どんな毎日を送りたいかまで入るようになった。
基準が増えれば、答えが簡単に出なくなるのは当然です。
それを「優柔不断になった」と考えるより、人生に対して見るものが増えたと考えた方が、私は自然な気がします。
だから「30代なのに、まだキャリアが定まらない」と焦らなくてもいいと思っています。
30代だからこそ、今までの延長線を初めて疑うことがあります。
「このままでいい?」が何度も戻ってくるなら
今の仕事に大きな不満がないなら、すぐに転職する必要はありません。
一方で、「恵まれているんだから考えるのをやめよう」と自分を納得させ続ける必要もないと思います。
一度なら、ただ疲れていただけかもしれない。
でも、半年後も、一年後も、何かのたびに同じ問いが戻ってくる。
そういう違和感なら、なかったことにしない方がいいのかもしれません。
転職サイトを何百件見ることが答えになるとは限りません。今引っかかっているのが仕事そのものではなく、この先の暮らし方や、ずっと同じ基準で進み続けることへの違和感なら、求人票を増やしても埋まらないからです。
30代のキャリアの迷いは、ときどき「次の仕事を何にするか」より大きな話になります。
この先どんな人生を送りたいのか、その中で仕事をどこに置きたいのか。
だから一度考えたくらいで、きれいな答えが出なくても不思議ではありません。
☕ ちょっと一服
「このままでいい?」と思ったからといって、今の人生が間違っているわけではありません。今まで選んできたものを大切にしたまま、「これからも同じ選び方でいいのかな」と思うことはあります。
まだ誰かに相談するほどではないけれど、研究やキャリアについて少しずつ考えていきたい方には、Marin Career Labの公式LINEがあります。新しい記事や、キャリアについて考えるきっかけをお届けしています。
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一方で、「転職したいのかも分からないのに、何度も同じところへ戻ってしまう」「一度、自分の話として誰かと話してみたい」と感じている方には、ココナラで単発相談を受けています。
30代のキャリアは、求人を一つ決めれば終わる話ではないことがあります。
今の仕事、専門性、収入、これからの働き方、その先の暮らしまで絡んでいて、一度の相談だけでは急いで答えを出したくない方もいると思います。
そういう方には、MENTAで継続的にキャリアを考える相談も受けています。
「転職すべきか、残るべきか」という答えを用意してから話す必要はありません。
むしろ、
「別に今が嫌なわけではない。でも、このまま何年も経つのは少し怖い」
そのくらいの違和感からで大丈夫です。
30代で「このままでいい?」と思い始めたことは、今までのキャリアが間違っていたということではない。
ただ、これから先は、今までと同じ物差しだけでは決めたくなくなった。
その変化自体を、私は大切にしていいと思っています。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。



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