「専門分野以外で、あなたの強みは何ですか?」
そう聞かれたとき、すぐに答えられるでしょうか。
博士号を取った。 何年も研究してきた。 専門知識もある。
それなのに、いざ転職を考えると、
「研究以外に、自分に何ができるんだろう」
と急に自信がなくなる。
求人を見ても、自分とは関係のない仕事に見える。
異業種に興味はあるけれど、「未経験」の文字を見ると応募する勇気が出ない。
周りからは「博士なんだから強みがあるでしょう」と言われるけれど、自分ではその強みがよくわからない。
もしそう感じているなら、能力がないのではなく、自分の経験をまだ「研究以外でも伝わる言葉」にできていないだけかもしれません。
この記事では、研究や理系の専門職として積み上げてきた経験を一度ばらして、「自分は何ができる人なのか」を見つけていきます。
なぜ研究者は、自分の強みに気づきにくいのか
研究の世界に長くいると、周りにも似た経験をしている人がたくさんいます。
論文を読む。
仮説を立てる。
実験をする。
データを解析する。
学会で発表する。
共同研究者と議論する。
研究室では普通のことなので、それを「強み」だとは思わなくなります。
でも、環境が変われば、その普通は普通ではありません。
キャリアを考えるときに必要なのは、
「何を研究してきた?」
だけではなく、
「その研究を進めるために、自分は何をしてきた?」
を見ることです。
「研究しかしていない」を一度分解してみる
「研究しかしてきませんでした」
という人の数年間を、本当に細かく見てみると、実際にはいろいろなことをしています。
たとえば、研究テーマを一つ進めるだけでも、
- 先行研究を調べる
- まだわかっていないことを探す
- 仮説を考える
- 実験を設計する
- 必要な人や設備を調整する
- データを解析する
- うまくいかない原因を考える
- 結果を人に説明する
- 次に何をするか決める
という仕事があります。
「研究」という一言の中に、いくつもの能力が隠れています。
研究経験を、別の仕事でも伝わる言葉にしてみる
たとえば、こんなふうに見方を変えることができます。
| 研究でやってきたこと | 別の仕事でも使える力 |
|---|---|
| 論文・先行研究を調べる | 情報収集・リサーチ |
| 未解決の問いを探す | 問題設定 |
| 仮説を立てる | 仮説構築 |
| 実験計画を作る | プロジェクト設計 |
| データを解析する | データ分析 |
| 実験が失敗した原因を探す | 問題解決 |
| 学会発表をする | プレゼンテーション |
| 論文を書く | 論理的な文章構成 |
| 共同研究を進める | 関係者との調整 |
| 学生・後輩を指導する | 育成・マネジメント |
| 英語論文を読み書きする | 専門的な英語コミュニケーション |
ただし、ここで終わらないことが大切です。
「私は問題解決力があります」
と書くだけでは、まだ抽象的です。
次に、
「自分の場合、いつその力を使った?」
まで思い出します。
「論文を書きました」の中に、何が隠れている?
たとえば、
「筆頭著者として論文を発表した」
という経験があるとします。
もちろん、それ自体も成果です。
でも、キャリアの棚卸しではもう少し分解してみます。
研究テーマはどう決めたのか。
途中で何がうまくいかなかったのか。
そのとき、どう考えたのか。
誰と協力したのか。
自分はどんな役割だったのか。
どんな判断をしたのか。
結果をどうまとめたのか。
こうして見ていくと、
「論文を書いた」
という一つの成果の中にも、いくつもの能力が入っていることがわかります。
強みを探すなら、成功体験だけを探さない
自己分析というと、
「大きな成果を出した経験を探さなければ」
と思うかもしれません。
でも、私はむしろ、
「困ったとき、自分はどうしていた?」
を思い出すのがおすすめです。
実験がうまくいかなかった。
必要なデータが取れなかった。
共同研究が進まなかった。
初めてのテーマを任された。
締切に間に合いそうになかった。
そんなとき、自分はどう動いたでしょうか。
ひたすら文献を調べた人。
詳しい人を探して聞きに行った人。
別の方法を考えた人。
タスクを整理した人。
周りを巻き込んだ人。
何度も条件を変えて検証した人。
その「どう動いたか」に、その人らしい強みが出ることがあります。
「何が得意?」より「何をよく頼まれていた?」を考える
自分の強みがわからないときに、もう一つ考えてみてほしいことがあります。
研究室や職場で、
なぜか自分によく頼まれていたことはありませんでしたか?
データ解析を頼まれる。
「この資料、見てくれない?」と言われる。
発表前にスライドを見てほしいと言われる。
新しく入った人への説明を任される。
トラブルが起きると相談される。
英語のメールを確認してと言われる。
自分にとって簡単なことほど、
「こんなの誰でもできる」
と思ってしまいます。
でも、周りが繰り返しあなたに頼んでいたなら、そこには何か理由があるはずです。
研究職から異業種へ行くなら「翻訳」が必要になる
同じ研究分野への転職なら、専門知識そのものが評価されることがあります。
でも、職種や業界が離れるほど、
「○○について研究していました」
だけでは、相手に価値が伝わりにくくなります。
必要なのは、経験を盛ることではありません。
相手にもわかる言葉に変えることです。
たとえば、
「細胞を使った新しい評価系を構築した」
という経験。
専門外の人には、それだけでは価値がわからないかもしれません。
でも実際には、
既存の方法を調査した。
課題を見つけた。
複数の条件を比較した。
失敗の原因を分析した。
方法を改善した。
再現できる状態まで持っていった。
という経験だったかもしれません。
そう考えると、問題解決、情報収集、仮説検証、プロジェクト推進など、別の仕事にもつながる要素が見えてきます。
研究職以外のキャリアも考えている方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
研究職から異業種へ転職できる?研究経験を活かせる仕事と考え方
求人票を見ると、自分の強みが見えやすくなる
自己分析だけをずっと続けていると、
「結局、私の強みって何?」
とわからなくなることがあります。
そんなときは、逆に求人を見ます。
少しでも気になる仕事を5〜10件開いてみてください。
見るのは、
- 仕事内容
- 必須条件
- 歓迎条件
- 求められている経験
- 求められているスキル
です。
そして一つずつ、
「自分の経験のどこかと重ならない?」
と考えます。
この順番なら、
「私の強みは何だろう」
という抽象的な自己分析から、
「この仕事に対して、私のどの経験が使える?」
という具体的な問いに変わります。
研究者だから全員同じ強み、ではない
「研究者の強みは論理的思考力です」
とまとめることはできます。
でも、それだけでは自分のキャリアを考えるには足りません。
同じ博士号を持っていても、
人前で説明するのが得意な人。
膨大な情報を整理するのが得意な人。
一つの問題を深く考えるのが得意な人。
複数の人を巻き込むのが得意な人。
新しいテーマをゼロから立ち上げるのが得意な人。
人によって全然違います。
大切なのは「研究者の強み」を知ることではなく、
「私の強みは何?」
まで落とし込むことです。
10分だけ、自分の研究経験を棚卸ししてみる
紙でもスマホのメモでも構いません。
研究や仕事の中から、印象に残っている出来事を3つ選んでください。
成功した経験だけでなく、苦労した経験でも大丈夫です。
そして、それぞれについて4つ書きます。
1. 何が起きた?
そのときの状況を簡単に書きます。
2. 何が問題だった?
自分が解決しなければならなかったことを書きます。
3. 自分は何をした?
ここを一番具体的に書いてください。
4. その結果、何が変わった?
数字で表せなくても構いません。
3つ並べてみると、
「私は毎回、情報を整理している」
「問題が起きると、まず原因を分解している」
「人と人の間に入ることが多い」
「新しいことを調べて始める役割が多い」
など、自分の行動パターンが見えてくることがあります。
強みが見えたら、「どこで使うか」を考える
自分の強みがわかっても、そこで終わりではありません。
次は、
「この力を、どんな仕事で使いたい?」
を考えます。
専門性をそのまま使いたいのか。
科学には関わりながら、研究以外の仕事をしたいのか。
業界そのものを変えたいのか。
海外も視野に入れたいのか。
強みと選択肢をつなげて初めて、次のキャリアが少しずつ具体的になります。
博士号取得後のキャリアを広く見てみたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
博士号を取った後のキャリアは?研究職だけじゃないPhDの選択肢
一人で考えていると、同じところに戻ってしまうなら
ここまで自分でやってみても、
「結局、どれが私の強みなのかわからない」
ということがあります。
それは珍しいことではありません。
自分にとって当たり前にできることほど、自分では価値に気づきにくいからです。
私自身も、PhD、製薬での創薬研究、Harvardでの研究と異なる環境を経験する中で、同じ経験でも、場所が変われば求められるものや評価されるポイントが変わることを感じてきました。
だから、キャリアを考えるときに必要なのは、経歴を立派に見せることではないと思っています。
これまでの経験を一度ばらして、
「私は何ができる人なのか」
「何をしているときに力を発揮していたのか」
「その力を次はどこで使いたいのか」
を整理することです。
転職するかどうか自体に迷っている方は、こちらから考えてみてもいいと思います。
研究職から転職したい人へ|後悔しないために考えたい5つのこと
そして、
「自分で棚卸ししてみたけれど、結局どれが強みかわからない」
「研究経験をどう説明すればいいかわからない」
「自分の場合、どんなキャリアならこの経験を活かせるんだろう」
というところで止まっているなら、一人で答えを出してから相談する必要はありません。
Marin Careerでは、これまでの研究や仕事の経験を一緒に振り返りながら、本人にとっては当たり前になっている経験も含めて整理していきます。
そのうえで、
今の仕事に残るのか。
環境を変えるのか。
職種を変えるのか。
まったく違う可能性を探すのか。
次の選択肢を一緒に考えます。
まだ転職すると決めていなくても大丈夫です。
もしこの記事を読んで、
「自分の場合は、何が強みなんだろう?」
と思ったなら、その問いをそのまま持ってきてください。
自分で棚卸ししてみても、
「結局、私の強みって何だろう」 「この経験は転職でどう伝えればいい?」 「私の場合、どんな仕事なら活かせる?」
というところで止まってしまうことがあります。
そんなときは、その問いをそのまま持ってきてください。
これまでの研究や仕事を一緒に振り返りながら、自分では気づきにくい経験や強みを整理し、次のキャリアにつなげていきます。


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