転職サイトで、少し気になる求人を見つける。
仕事内容を読む。今までの研究経験とまったく同じではないけれど、どこか面白そうだと思う。少しだけ今とは違う働き方ができそうな気もする。
応募画面まで進んで、履歴書を添付する。
職務経歴書も、何とか書ける。
でも「志望動機」の欄を開いたところで、手が止まる。
今の仕事を離れたい理由なら、いくつか思い浮かぶ。
このままずっと同じ研究を続けたいわけではない。もっと違う仕事にも触れてみたい。今の会社では、自分が見られる範囲に限界を感じている。研究そのものより、その先で何が起きるのかに興味が出てきた。
そこまでは、自分でも分かっている。
でも、
「なぜ、この会社なのですか」
と聞かれた途端、急に何を書けばいいのか分からなくなる。
「これまでの研究経験を活かしたい」
「御社の研究開発力に魅力を感じた」
「グローバルに挑戦できる環境に惹かれた」
それらしい言葉は書ける。
けれど、読み返すと妙によそよそしい。
自分が本当にそう思っているのか、自分でも分からない。
研究職の転職で志望動機が書けないとき、文章力が足りないとは限りません。
むしろ、「今の場所を離れたい理由」と「次の場所へ行きたい理由」の間に、まだ言葉になっていないものがあることがあります。
- 今の研究を嫌いになったわけではないから、説明が難しい
- 志望動機を書こうとしただけなのに、博士まで取った自分の話になる
- 「なぜこの会社?」への答えが、仕事内容だけでは決まらない年齢になる
- 研究にはきれいな辞め時がないから、「なぜ今?」にも答えにくい
- 「これまでの研究経験を活かしたい」と書くほど、自分が見えなくなることがある
- 「この会社じゃなければいけない理由」が見つからなくても、おかしくない
- 何社見ても志望動機が書けないなら、会社選びの前で止まっていることもある
- 内定が出た瞬間に、志望動機の違和感が戻ってくることがある
- 研究内容のストーリーは話せるのに、自分のキャリアのストーリーは難しい
- 「志望動機を書けない私」ではなく、まだ言葉になっていないだけかもしれない
今の研究を嫌いになったわけではないから、説明が難しい
研究職から転職しようとするとき、研究そのものが嫌いになっているとは限りません。
むしろ、ここが一番ややこしいところかもしれません。
面白い論文を読めば、今でも面白いと思う。
自分の仮説とデータがつながった日は嬉しい。
長く追ってきた研究テーマにも愛着がある。
研究者として話している自分を、嫌いになったわけでもない。
それなのに、転職サイトを見ている。
「研究が嫌になったので辞めます」なら、話はもっと単純だったかもしれません。
でも実際には、
研究は好きだけれど、今と同じ形で研究を続けることには迷っている。
そんな人もいます。
実験をする時間より、研究テーマそのものを考えている時間の方が面白くなってきた。
自分でデータを出すことより、複数の研究を見ながら「どれを次へ進めるのか」と考えることに興味が移ってきた。
研究成果が出たあと、それが開発や事業につながっていくところまで見たいと思うようになった。
海外の研究者や他部署と仕事をした経験から、研究室の中だけで完結しない仕事に惹かれるようになった。
こういう変化は、数年かけて少しずつ起きます。
昨日まで研究者だった自分が、ある朝突然「別の仕事をしたい人」に変わるわけではありません。
だから志望動機を書こうとしたとき、自分でも説明できなくなるのだと思います。
研究を否定したいわけではない。
でも、研究だけに戻りたいわけでもない。
その間にいる。
🌿 Marinの独り言
私自身も、研究から次のキャリアを考えたとき、「研究が嫌いになった」という感覚ではありませんでした。
むしろ研究をしてきたからこそ、自分が何に一番興味を持つのかが少しずつ見えてきた感覚があります。
キャリアが変わることは、それまでの自分を否定することとは限りません。そこまでやったから、次に気になるものが見えることもあります。
志望動機を書こうとしただけなのに、博士まで取った自分の話になる
研究職の転職は、ときどき一つの求人に応募する以上に重くなります。
大学院へ進み、何年も研究してきた。
博士号を取った人なら、「研究する人になる」ことにかなり長い時間を使っています。
そのあと企業の研究職に入っていれば、さらに何年も専門性を積み上げている。
だから別の仕事に興味を持ったとき、
「この求人に応募するか」
という話だけでは終わりません。
「博士まで取ったのに、この道を離れていいのだろうか」
「ここまで積み上げてきた専門性を使わない仕事へ行ったら、何のために研究してきたんだろう」
というところまで話が大きくなることがあります。
志望動機の欄には数百文字しかないのに、頭の中では十年近い自分のキャリアを説明しようとしている。
それでは、簡単に書けなくても不思議ではありません。
しかも、研究を離れることには、少し片道切符のような怖さを感じる人もいます。
一度別の仕事へ行ったら、もう研究には戻れないのではないか。
実験から離れたら、研究者ではなくなってしまうのではないか。
以前のラボや研究者コミュニティとのつながりまで薄くなるのではないか。
実際のキャリアはそんなに単純ではないのですが、決断する前にはそう感じることがあります。
だから「なぜこの会社なのか」を考えていたはずが、いつの間にか、
「私はこれからも研究者なのだろうか」
という問いになっている。
もしそうなら、志望動機だけを直しても、たぶんすっきりしません。
☕ 「博士まで来たのに、ここで研究を離れていいのか」が一番引っかかっている方へ
転職先そのものより、「ここまで研究してきた自分をどう扱えばいいのか」で止まっているなら、こちらの記事の方が近いと思います。
「なぜこの会社?」への答えが、仕事内容だけでは決まらない年齢になる
研究職の志望動機というと、仕事内容や専門性の話だけを考えがちです。
でも30代くらいになると、会社を選ぶ理由はそれだけではなくなってきます。
研究として一番面白い仕事が、必ずしも自分にとって一番いい仕事とは限らない。
勤務地がある。
家族がいる。
これからどこで暮らしたいかがある。
働く時間や年収、この先の生活もある。
研究職は、専門性が高いほど勤務地や求人の数が限られることがあります。
自分の専門をそのまま使える会社が、全国どこにでもあるわけではありません。
だから本当は、
「この仕事が一番面白いから」
だけではなく、
「この場所で暮らしたい」
「家族との生活を考えると、この働き方に変えたい」
「海外で働ける可能性を残したい」
ということまで含めて会社を選ぶ人もいます。
でも志望動機を書こうとすると、それらを全部脇に置いて、「御社の研究開発力に魅力を感じました」と書かなければいけないような気がする。
すると、文章だけが自分から離れていきます。
もちろん、生活上の事情をそのまま志望動機にすればいいという話ではありません。
でも、自分が会社を選んでいる理由を、自分自身まで忘れないことは大切だと思います。
キャリアは仕事だけでできているわけではないからです。
☕ 「転職するか」より、30代になってこれからどう暮らしたいかまで迷っている方へ
年齢、勤務地、家族、働き方まで一緒に考え始めると、「一番面白い仕事は何か」だけでは決められなくなることがあります。
研究にはきれいな辞め時がないから、「なぜ今?」にも答えにくい
志望動機と一緒に聞かれやすいのが、
「なぜ今、転職しようと思ったのですか」
という質問です。
これも、研究職には答えにくいことがあります。
研究には、きれいな終わりがなかなか来ないからです。
この実験が終わったら。
このプロジェクトが一段落したら。
この論文が出たら。
この特許がまとまったら。
次のマイルストーンまで行ったら。
そう思っていると、一つ終わるたびに次があります。
うまくいかなければ、「せめて形にしてから辞めたい」と思う。
うまくいけば、「ここまで来たなら最後まで見たい」と思う。
どちらでも残る理由ができます。
だから、「今でなければならない理由」を完璧に説明しようとすると、なかなか見つかりません。
研究としての区切りと、自分のキャリアの区切りが、同じ日に来るとは限らないからです。
転職の志望動機を書くときにも、無理に「今こそ完璧なタイミングです」という物語を作らなくていいと思います。
むしろ、
以前はそれほど気にならなかった別の仕事が、最近ずっと気になるようになった。
今の環境でもう少し経験を積めば消えると思っていた違和感が、消えなかった。
仕事をする中で、自分が次に見たいものが変わってきた。
そんな変化の方が、実際のキャリアにはよくあります。
☕ 「転職したいけれど、まだ何年目だから早い気がする」という方へ
研究職は、プロジェクトの区切りとキャリアの区切りが一致しにくい仕事です。「3年はいた方がいいのか」「何年目なら動いていいのか」が気になっているなら、こちらへ。
「これまでの研究経験を活かしたい」と書くほど、自分が見えなくなることがある
研究職の志望動機では、
「これまで培った研究経験を活かしたい」
という言葉を使いたくなります。
たぶん、本当にそう思っているのだと思います。
でも「研究経験」という言葉は、かなり大きい。
その中には何年分もの仕事が入っています。
仮説を立てたこと。
実験系を立ち上げたこと。
何か月やってもうまくいかなかったこと。
結果を見て、それまでの考えを捨てたこと。
共同研究者と話したこと。
他部署へ説明したこと。
自分では決められない事情で、研究テーマが止まったこと。
企業研究なら、自分の成果が必ずしも自分の名前で外へ出るとは限りません。
論文や学会発表として見える成果だけではなく、会社のプロジェクトやチームの中に残る仕事もあります。
すると転職するとき、
「私は何をしてきた人なのか」
を、自分で改めて説明する必要が出てきます。
これは意外と難しい。
アカデミアでは論文という形で見えていたものが、企業では機密情報だったり、チームの成果だったりする。
成果がないわけではないのに、職務経歴書へ書こうとすると急に薄く見える。
志望動機でも同じです。
「研究経験を活かしたい」と書くだけでは、自分が実際に何を持って次へ行こうとしているのかが見えません。
でも、それは研究経験に価値がないからではありません。
研究室の中では当たり前すぎて、自分で価値として認識していないものがあるからです。
☕ 志望動機より、「そもそも自分の何が転職先で使えるのか」が分からない方へ
研究してきたことは分かる。でも、それを企業でどう説明すればいいのか分からない。そんなときはこちらの記事の方が近いと思います。
「この会社じゃなければいけない理由」が見つからなくても、おかしくない
志望動機を書いていると、
「それ、他の会社でもできるよね」
という声が頭の中に出てくることがあります。
もっとグローバルに働きたい。
でも海外展開している会社は他にもある。
研究から開発へ近い仕事がしたい。
でも似たポジションは別の会社にもある。
この疾患領域に興味がある。
でも一社だけが研究しているわけではない。
すると、この会社でなければならない「唯一無二の理由」を作らなければいけない気がしてきます。
でも転職で、本当にそんな運命的な理由が必要なのでしょうか。
複数の会社に興味を持つのは普通です。
私は、「他社では絶対にできない」まで言い切るより、
これまでの自分がどこに興味を持つようになり、その延長にこの会社のこの仕事がある
というつながりの方が大事だと思っています。
たとえば、海外の研究者との共同研究が思った以上に楽しかった。
専門や文化が違う人と話しながら一つのテーマを進めることに、自分はかなり面白さを感じていた。
次は、それを一時的な共同研究ではなく、日常の仕事としてやってみたい。
応募先のポジションでは、実際に海外チームとの連携が仕事の中心になっている。
これなら、「グローバル企業だから」よりずっとその人の話になります。
会社を褒める言葉を探すより、
求人を読んだときに、自分のどこが少し動いたのか。
そこを見る方が、志望動機は自分のものになりやすいと思います。
何社見ても志望動機が書けないなら、会社選びの前で止まっていることもある
一社だけではなく、何社見ても志望動機が書けないことがあります。
仕事内容はどれも悪くない。
条件も悪くない。
でも、「行きたい」とまでは思えない。
そんなとき、自分を「優柔不断だ」と思わなくていいと思います。
本当に迷っている場所が、会社選びより前にあることがあるからです。
研究を続けたいのか。
研究そのものは続けたいけれど、今の環境を変えたいのか。
研究から離れて違う仕事へ行きたいのか。
専門性は使いたいけれど、自分で実験をする仕事からは離れたいのか。
本当は仕事内容より、住む場所や働き方を変えたいのか。
これらがまだ混ざっていると、求人を何十件見ても「ここだ」とはなりません。
逆に、ここが少し見えてくると、今まで何とも思わなかった求人が急に気になることがあります。
会社が変わったのではなく、自分が何を探しているのか分かったからです。
☕ 「志望動機が書けない」より前に、「私は本当に転職したいの?」で止まっている方へ
求人を見ているのに、応募したいのかどうかまで自分でも分からなくなることがあります。
内定が出た瞬間に、志望動機の違和感が戻ってくることがある
応募している間は、「まず受かりたい」と思います。
書類が通れば嬉しい。
面接が進めば、少し期待する。
ところが、本当に内定が出た瞬間、
「私、本当にここへ行きたいんだっけ」
と急に怖くなることがあります。
それまで転職活動では、「どうすれば通るか」を考えていた。
でも内定が出ると、今度は本当に選ばなければいけません。
今の会社を離れる。
研究テーマを置いていく。
同僚や上司との関係も変わる。
場合によっては住む場所も変わる。
研究職から別職種へ行くなら、昨日まで専門家だった自分が、新しい場所では知らないことの多い人になる。
そこで初めて、志望動機を書いたときに感じていた違和感が戻ってくる。
これは、選考対策だけでは解けない迷いです。
条件を比較しても決められないことがあります。
年収は上がる。
仕事内容も面白そう。
でも、本当に行きたいのかは分からない。
逆に、条件だけなら今の会社の方がいいのに、なぜか新しい方へ行きたい気持ちが消えないこともあります。
研究職の転職は、最終的には「どの会社が一番いいか」だけではなく、
これからどう働き、どう暮らしたいか
の話になることがあります。
だから私は、志望動機を書けないことを、単なる応募書類の問題だとは思っていません。
その小さな欄で、自分がまだ決めきれていないことが見えている場合があるからです。
研究内容のストーリーは話せるのに、自分のキャリアのストーリーは難しい
HarvardのCareer Fairに参加したとき、PhDの企業就職について印象に残ったことがあります。
「何を研究してきたのか」だけではなく、「なぜその仕事をしたいのか」「自分は会社に何を提供できるのか」を、自分自身のストーリーとして伝えることが重視されていました。
研究者は、研究のストーリーを作ることにはかなり慣れています。
背景がある。
まだ分かっていないことがある。
だから仮説を立てる。
この方法で検証する。
結果はこうだった。
次はこう考える。
でもキャリアになると、同じようにはいきません。
なぜ大学院へ進んだのか。
なぜ研究職を選んだのか。
その中で何が面白かったのか。
なぜ今、別の仕事が気になっているのか。
そして、なぜ次にこの会社なのか。
後から振り返ればつながって見えることでも、その途中にいる本人にはなかなか見えません。
だから、志望動機を書くことは、自分の経歴をきれいな物語に作り変えることではないと思っています。
むしろ、今までバラバラに見えていた出来事の中から、
「私はここで、少し方向が変わったんだ」
という場所を見つけることに近い。
🌿 Marinの独り言
キャリアは、最初から一本の線になっているわけではないと思います。
そのときはただ目の前の研究をしていただけなのに、あとから見ると「あの経験から興味が変わった」と分かることがあります。
志望動機は、立派な物語を作るものというより、自分の中で起きていた変化に後から言葉を与えるものなのかもしれません。
HarvardのCareer Fairで実際に感じたPhDの企業就職については、こちらでも詳しく書いています。
HarvardのCareer Fairで知った、PhDが企業就職で求められること
「志望動機を書けない私」ではなく、まだ言葉になっていないだけかもしれない
研究職の転職で志望動機が書けない。
そんなとき、検索するとたくさんの例文が出てきます。
例文を参考にすること自体が悪いわけではありません。
ただ、どの例文を当てはめても自分の文章に見えないなら、無理に完成させなくてもいいと思います。
研究を嫌いになったわけではない。
でも、このままずっと同じ場所にいる自分も想像できない。
次の仕事は気になる。
でも、本当にそこでいいのかは分からない。
専門性を手放すのも怖い。
今の生活をそのまま続けることにも、少し違和感がある。
そういうものが全部一緒に入っていたら、「志望動機」という一言にすぐ変換できなくても当然です。
私は、こういう状態で相談してもらっていいと思っています。
「応募書類を添削してください」と言えるところまで整理されていなくても大丈夫です。
むしろ、
「自分でも、なぜ転職したいのか分からなくなってきた」
くらいのところから話すことがあります。
話しているうちに、
研究を辞めたいのではなく、今の働き方を変えたかった。
研究は続けたいけれど、もっと別の役割を持ちたかった。
転職したかったというより、住む場所を選び直したかった。
逆に、ずっと「まだ辞めるほどではない」と思っていたけれど、本当はもう次へ行きたい気持ちがかなり大きくなっていた。
そんなことが見えてくることがあります。
志望動機を完成させることより先に、自分が何を選ぼうとしているのかが分かる。
その方が、そのあと書く言葉も自分のものになります。
もし今、求人を開いては閉じ、「なぜこの会社なのか」を何度考えても言葉にならないなら、まだ答えがないままでも大丈夫です。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。


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