「研究職から転職したいのかもしれない」
そう思って転職サイトを開いたことがあるのに、「では、本当に今の仕事を辞めたいですか?」と聞かれると、急に分からなくなる。
今の仕事が耐えられないほど嫌なわけではないし、明日にでも辞めたいわけでもない。仕事にも慣れてきたし、自分なりにできることも増えた。それなのに、企業へ行った同期の話を聞いたり、研究とは違う場所で働いている人を見たりすると、なぜか気になる。
転職サイトを開けば、今まで知らなかった仕事がたくさん出てきます。「こういう働き方もあるんだ」と眺めている時間は少し楽しい。でも、いざ応募する自分を想像すると、そこまでしたいわけではないような気がして、結局画面を閉じる。
そして、しばらくするとまた見ている。
この繰り返しをしていると、自分でも自分の気持ちが分からなくなってきます。
転職したいなら、転職すればいい。今の仕事を続けたいなら、転職サイトなんて見なければいい。
そんなふうに割り切れたら簡単なのに、どちらにも振り切れない。
もしかすると、ここで気になっているのは「次にどんな仕事をするか」だけではないのかもしれません。
今の仕事に大きな不満はない。それでも違う世界が気になる
転職を考えるのは、今の仕事に何か大きな問題がある人だと思っていた。
ところが、自分にはそれほど分かりやすい理由がない。職場が耐えられないわけでも、研究そのものを二度とやりたくないわけでもない。周囲から見れば、このまま続けていけばいいように見えるかもしれません。
自分でもそう思うのです。
今のままでも、たぶんやっていける。
だからこそ、ときどき浮かんでくる「違う仕事もしてみたい」という気持ちを、自分でうまく扱えなくなる。
最近疲れているだけかもしれない。隣の芝生が青く見えているだけかもしれない。転職したところで、今よりいい人生になる保証なんてどこにもない。
そう考えて、一度は納得する。
ところが、何か月か経つとまた別の仕事を見ている。誰かの転職報告が妙に気になったり、自分とはまったく違う働き方をしている人の記事を最後まで読んでしまったりする。
大きな不満がないのに、なぜ私は何度も外を見てしまうんだろう。
その問いの方が、だんだん気になってきます。
羨ましいのは、その人の「仕事」なのだろうか
企業へ行った同期の話を聞いて、少し羨ましくなる。
でも、その人がやっている仕事を自分もやりたいのかと考えてみると、よく分からない。
海外で働いている人が気になることもあります。研究とはまったく違う世界へ進んだ人を見て、「面白そうだな」と思うこともある。でも、その職種になりたいのかと聞かれれば、やはり少し違う。
それなのに、なぜか心に残る。
たぶん私たちは、他人のキャリアを見ているとき、仕事だけを見ているわけではないのだと思います。
その人が朝どこへ向かい、どんな人たちと働き、どんな場所で暮らし、何を当たり前として毎日を過ごしているのか。その人が選んだ仕事の向こう側には、自分とは違う一つの人生があります。
だから気になるのは、「その職業に就きたい」ということではなく、「私にも、こんなふうに今とは違う人生があったのかな」ということなのかもしれません。
転職サイトを見ているときも同じです。
求人を探しているつもりなのに、どの求人にも決め手がない。それでも見ることをやめられないのだとしたら、探しているのは次の会社ではなく、その求人の向こう側にいる「今とは違う自分」なのかもしれません。
研究者になるまで、ずっと「次」があった
研究の世界にいると、長い間「次」があります。
大学院へ進んだら次の研究があり、修士の先には博士課程があり、研究を続ければ次のテーマや成果がある。目の前のことに一生懸命取り組んでいるうちに、何年も同じ方向へ歩いていることがあります。
もちろん、その一つ一つは自分で選んできたはずです。
でも、あるところまで来たとき、ふと周りを見ることがあります。
同じ頃に大学を出た人が、自分の知らない仕事をしている。大学院を出て企業へ行った人が、もう何年もその世界で働いている。自分とはまったく違う場所に暮らしている人もいる。
その人たちを見て初めて、「私は、この道をずっと歩いてきたんだ」と気づく。
後悔しているわけではありません。
ただ、自分が一つの道を深く歩いている間にも、世の中にはたくさんの別の人生が存在していたことに気づいてしまう。
「あの人になりたい」とまでは思わない。それでも、自分がまだ知らない世界が急に気になり始める。
転職という言葉が頭に浮かぶのは、そんなときなのかもしれません。
本当に欲しいのは、「まだ選べる」という感覚なのかもしれない
研究職から転職したいと思っているのに、何か月経っても応募しない。
そうすると、「結局、私は転職したくないんだ」と自分で結論を出したくなります。
でも、本当にそうでしょうか。
今すぐ別の会社へ行きたいわけではない。でも、今いる場所だけが自分の人生ではないと思いたい。
研究者としてここまで来たからといって、この先の人生まで一本の線で決まっているわけではない。ここに残ることもできるし、いつか違う場所へ行くこともできる。
もしかすると欲しかったのは、具体的な転職先よりも、
「私は、ここからでも違う人生を選べる」
という感覚なのかもしれません。
そう考えると、転職サイトを何度も見るのに応募したい会社がなかなか見つからないことも、それほど不思議ではなくなります。
求人そのものを探していたというより、「今とは違う未来もまだ存在している」と確かめたかった。
研究職から転職したいという気持ちの中には、そんな感覚が混ざっていることもあるのではないでしょうか。
☕ 「転職したいか分からない」のではなく、求人で止まっている方へ
もし転職したい気持ちはある程度はっきりしているのに、博士号も研究経験もあるはずなのに「自分が応募できる仕事がない」と感じているなら、このページとは少し違う悩みかもしれません。
博士の経験と求人票の間で起きるズレについては、こちらの記事で詳しく書いています。
違う人生が気になることと、今の人生を否定することは同じではない
ここで苦しくなるのは、別の人生に興味を持った瞬間、今いる場所から気持ちが離れてしまったように感じることです。
でも、今とは違う人生が気になるからといって、今までの人生が嫌いなわけではありません。今いる場所にも大切なものがあるし、そこで過ごしてきた時間にも、自分なりの意味がある。だから「違う道もある」と気づいた瞬間に、すぐそちらへ行きたいとは限らないのです。
今の場所に残りたい気持ちと、別の可能性を知りたい気持ちは、同時に存在できます。
それなのにキャリアについて考え始めると、私たちはつい一つの本音を探そうとします。「転職したいのか、したくないのか」という一つの答えを出せなければ、自分の気持ちが整理できていないように感じてしまう。
けれど、今の人生を大切にしながら、違う人生にも惹かれることはあります。
その両方が本当だからこそ、簡単には決められない。
「迷っている」というより、まだどちらか一方だけを本音にできないのかもしれません。
「このままでいい?」は、転職を決めたという意味ではない
一度「このままでいいのかな」と思ってしまうと、何か行動しなければいけないような気がしてきます。
せっかく違和感に気づいたのだから、転職した方がいいのではないか。何も変えなければ、数年後に後悔するのではないか。
でも、「このままでいい?」という問いが浮かんだことと、「今の仕事を辞める」という結論は同じではありません。
むしろ、それまで当たり前のように歩いていた道を、一度自分の意思で見直したくなったということなのかもしれません。
今までの延長線上を進むことだって、一つの選択です。
ただ、他の可能性をほとんど見ないまま「ここまで来たから」と進み続けることと、違う世界の存在も知ったうえで「それでも今はここにいたい」と思うことは、同じ場所に残るとしても少し違う。
転職することだけが、人生を選び直すことではないのだと思います。
外を見た結果、今いる場所をもう一度選ぶこともある。
反対に、今すぐではなくても、「いつか違う道へ行ってもいい」と思えたことで、目の前の仕事が少し違って見えることもあります。
大切なのは、転職サイトを閉じた自分を見て「やっぱり私は何も変えられなかった」と決めつけないことなのかもしれません。
まだ、答えを出すところまで来ていないだけかもしれないからです。
「本当に転職したいの?」に、まだ答えられない
転職サイトを開いたのだから、転職したいはず。
そうとは限りません。
今の仕事に大きな不満はない。でも、違う世界が気になる。今すぐここを離れたいわけではないけれど、この先もずっと同じ道しかないと思うと、それも少し違う気がする。
そんな気持ちを一つの答えにまとめようとすると、かえって分からなくなります。
もしかすると「研究職から転職したい」と思っていたけれど、本当に欲しかったのは別の仕事ではなく、「私にはまだ別の人生を選べる余白がある」と感じることだったのかもしれない。
もちろん、そこから本当に転職する人もいるでしょう。外を見たあとで、今いる場所を選び直す人もいると思います。
どちらになるのか、今はまだ分からなくてもいい。
ただ、何度も外の世界が気になるのなら、その気持ちは「転職するか、しないか」という結論だけでは片づけられない何かを、自分に伝えようとしているのかもしれません。
それでも「私はどうしたい?」が残っているなら
ここまで読んでも、「じゃあ私は転職したいの?」という問いには、まだ答えられないかもしれません。
むしろ、最初より少し分からなくなった人もいるかもしれない。
でも、キャリアの悩みは最初から「私はこれについて悩んでいます」ときれいに言葉にできるものばかりではありません。自分では転職について考えているつもりだったのに、誰かと話しているうちに、ずっと引っかかっていたのは別のことだったと気づくこともあります。
Marin Career Labでは、何を相談したらいいのかさえ分からない状態から、人と話すことで何が見えてくるのかを、実際の相談事例も交えてこちらの記事に書いています。
研究職のキャリアに迷ったら|博士・転職・キャリアチェンジを考える
まだ相談するほどではないけれど、研究者のキャリアを考えている方へ
今すぐ転職するつもりはないけれど、ときどき外の世界が気になる。
そんな段階でもいいと思っています。
Marin Career Labでは、このブログのほかにThreadsとInstagramでも、博士・研究者のキャリアや、専門性を持つ人の働き方について発信しています。
Threadsでは、「このままでいいのかな」「研究を離れたら何者になるんだろう」といった、研究者の日々の迷いやキャリアについて考えたことを中心に書いています。
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もし今、一人で何度も同じことを考えるのに少し疲れていて、誰かと話してみたいと思っているなら、相談することを決めてから、自分の気持ちをきれいに整理する必要はありません。
「転職したいのかどうかも、まだ分からない」
そのまま話しに来てください。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。



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