博士号を取った後のキャリアは?研究職だけじゃないPhDの選択肢

Career & Life

博士号を取ったあと、どんなキャリアがあるんだろう。

博士課程にいると、どうしても身近にいるのは研究者が多くなります。指導教員も、研究室の先輩も、学会で会う人たちも研究の世界にいる。だから私も、博士号の先には研究者としての人生がそのまま続いているような感覚を、どこかで持っていました。

でも、実際に博士号取得後のキャリアを見渡してみると、PhDのその後は思っていた以上にさまざまです。

大学や研究機関で研究を続ける人もいれば、企業で研究開発に携わる人もいる。研究そのものから少し離れながら専門性を活かす人もいれば、これまでとは異なる業界へ進む人もいる。日本だけではなく、海外の大学や研究機関、企業へ進むという道もあります。

博士号を取ったからといって、その先の人生まで「研究者」という一つの道に決まるわけではありません。

それを知ったとき、私はもっと自由になれると思っていました。

ところが、本当に難しかったのは、そのあとでした。

博士号取得後には、研究職以外にもキャリアがある

博士号取得後の進路として、最初に思い浮かぶのはアカデミアかもしれません。

大学や研究機関でポスドクとして研究を続け、その先の研究者としてのキャリアを目指していく。自分の研究テーマをさらに深めたい人にとっては、今まで積み重ねてきた時間と自然につながって見える道です。

一方で、企業へ進む博士もいます。

製薬やバイオ、化学、食品、素材、医療機器など、博士課程で培った専門性と近い領域で研究開発に携わることもできる。大学とは研究の目的や進め方が違っていても、研究そのものを仕事として続けるという意味では、アカデミア以外にも研究者として生きる場所があります。

そして、博士のキャリアは「研究を続けるか、辞めるか」の二択でもありません。

研究の最前線からは少し離れながら、専門知識を使って新しい技術や事業に関わる仕事もあります。サイエンスと社会の間に立つような仕事もあれば、科学そのものとは少し距離のある世界へ移っていく人もいます。

博士号を取ったあとに、それまでとは異なる業界へ進むことだってあります。

さらに、日本の中だけで次を探す必要もありません。

海外の大学や研究機関で研究を続ける道もあれば、海外企業で働くという選択もある。私自身もHarvardで研究した経験がありますが、国が変わると研究環境だけではなく、働き方や人との関係、自分の専門性の見え方まで変わりました。

博士号取得後のキャリアは、思っているよりずっと広い。

アカデミアに残ることもできる。企業で研究を続けることもできる。専門性を別の形で使うことも、まったく違う世界へ行くことも、海外へ出ることもできる。

「博士まで来たら、もうこの道しかない」と思っているときには、この広さを知るだけでも少し景色が変わると思います。

選択肢を知れば、迷わなくなると思っていた

でも、ここからが、私が博士のキャリアについて本当に難しいと思うところです。

道が一つではないと知れば、もっと楽に選べると思っていました。

実際には、逆でした。

アカデミアで研究を続けている自分も想像できるし、企業で働いている自分も想像できる。海外にいた経験があるから、もう一度外へ出る人生にも惹かれる。それまで研究をしていた人が、まったく違う仕事で生き生きしている姿を見ると、そんな未来もあったのかと思う。

どれも完全に違うとは思えないのに、どれか一つだけが「これだ」とも思えない。

研究職しかないと思っていたときには、「ほかにも道がある」と知りたかった。

ところが、本当にほかの道が見えるようになると、今度は「その中で私はどこへ行きたいんだろう」が分からなくなりました。

道がないから迷っているわけではない。

むしろ、道が見えすぎるから決められないことがあるのです。

博士号までは、いつも「次」があった

振り返ってみると、博士号を取るまでの人生には、意外とたくさんの「次」がありました。

大学に入り、もっと研究したいと思えば大学院がある。修士課程の先には博士課程があり、博士課程に入れば研究を進め、論文を書き、学位取得を目指す。

もちろん、その途中で迷うことはいくらでもあります。それでも、その世界の中にいる限り、次に目指すものはある程度見えていました。

研究そのものもそうでした。

分からないことがあるから調べる。試してみる。結果が出なければ、また考える。思いどおりにならないことばかりでも、目の前にはいつも「次にやること」がありました。

そして、その先には博士号という大きな目標があった。

だから、頑張れたのだと思います。

ところが、その博士号がいよいよ見えてきた頃、私は初めて気づきました。

その先には、「次はこれです」と誰かが示してくれるものがない。

ポスドクへ進んでもいい。企業へ行ってもいい。研究から離れてもいい。海外へ出てもいい。

どれを選んでもいいと言われた瞬間、それまで歩いていた一本道が、突然いくつもの道に分かれてしまったように感じました。

博士号を取ったあとに道が一つではないと知ったとき、嬉しいより先に怖くなることがあります。

それまでは「次に何をすればいいか」をある程度この世界が教えてくれていたのに、ここから先は、自分で選ばなければならないからです。

「博士まで来たのだから」という言葉が、選択を難しくすることもある

しかも、博士号の先で選ぶときには、ただ「どっちが楽しそうかな」とは考えにくいものです。

何年も研究を続け、博士号を取るところまで来た。

その時間があるからこそ、新しい道を見つけても、心のどこかに「博士まで来たのだから」という言葉が残ります。

せっかくここまで専門性を積み上げたのだから、それを使う仕事を選んだ方がいいのではないか。研究を離れたら、これまで頑張ってきた時間がもったいないのではないか。博士号を持っている自分が選ぶなら、それに見合うキャリアでなければいけないのではないか。

誰かに言われたわけではなくても、自分自身がいちばん強くそう思っていることがあります。

すると、目の前にはいくつもの道があるのに、自由に選べない。

博士号は本来、自分が積み重ねてきたものの一つであるはずなのに、いつの間にか「博士の私なら、どれを選ぶのが正解なのだろう」と考えるようになる。

選択肢が少ないから苦しいのではなく、どの道を選べば、ここまで来た自分に納得できるのか分からない。

博士号の先で感じる迷いには、そんなものも混ざっている気がします。

研究が好きなのに、研究者として続けるか迷うこともある

さらに難しいのは、研究が嫌いだから別の道を探しているとは限らないことです。

研究は好き。

面白い論文を読むのも好きだし、自分の仮説が少しずつ形になっていく感覚も好きだった。研究について話している時間には、今でも夢中になれる。

それなのに、「この先も研究職として生きていきたい?」と聞かれると、なぜかすぐには頷けない。

そんなことがあります。

研究が嫌いなら離れればいい。研究が好きなら続ければいい。

そんなに簡単だったら、たぶん迷わないのだと思います。

研究を好きでいることと、研究者として働き続けることは、本当は同じではありません。でも長く研究の世界にいるほど、その二つは自分の中で重なっていきます。

だから別の道を想像したときに、「仕事を変える」という話だけではなく、研究を好きだった自分まで手放してしまうような寂しさを感じることがあります。

私はこの気持ちについて、別の記事でもう少し深く書きました。

「研究が好き」なら、研究職を続けるべき?好きなのに離れたいと思うあなたへ

選択肢はあるのに、「私は何がしたい?」が分からない

反対に、どの道にも少しずつ興味があるからこそ、決められないこともあります。

研究を続ける人生も悪くないと思うし、企業で働くことにも興味がある。海外へ行くことにも惹かれるし、今までとは違う仕事をしている自分を想像すると、少しワクワクすることもある。

それなのに、「じゃあ、一番やりたいことは何?」と聞かれると答えられない。

何も望んでいないわけではないのに、キャリアの話になった途端、自分の中にある気持ちでは足りないような気がしてしまう。

博士まで取ったのだから、もっと明確な目標があるべきなのではないか。もっと専門性につながった答えでなければいけないのではないか。

そうやって考えているうちに、自分が何をしたいのか、本当に分からなくなってしまうことがあります。

「博士まで取ったのに、やりたいことがない」と感じている人に向けて、この迷いについてはこちらに書いています。

博士まで取ったのに、やりたいことがない。「次に何をしたい?」が分からないときに

「選ぶ」どころではなくなってしまうこともある

博士号の先にいろいろなキャリアがある。

頭では分かっていても、D3になってまだ次の所属先が決まっていなければ、そんなふうに悠長に考えていられないこともあります。

同期の進路が一人ずつ決まり、研究室でも来年度の話が増えていく。自分にはまだ何も決まっていないのに、時間だけは過ぎていく。

最初は「私はどんな仕事がしたいんだろう」と考えていたはずなのに、不採用が続くうちに、問いそのものが変わってしまう。

「私はどこへ行きたい?」ではなく、「どこなら私を受け入れてくれる?」と考えるようになる。

私自身にも、そんな時期がありました。

ただただ、チャンスが欲しかった。

そして、仕事が決まらないこと以上に、「博士まで来た自分を、社会のどこも必要としていないのではないか」と感じることが怖かったのだと思います。

その頃のことは、こちらの記事に書いています。

D3なのに内定がない。「博士まで来たの、間違いだった?」と思っているあなたへ

同じ博士号を持っていても、その先まで同じでなくていい

博士課程にいると、同じような毎日を送っている人が周りにたくさんいます。

実験をして、論文を書いて、学会へ行く。研究テーマは違っていても、博士号という同じ場所を目指している。

でも、その場所を通り過ぎたあと、人の人生は驚くほど違う方向へ広がっていきます。

研究者として大学に残る人もいれば、企業へ行く人もいる。海外へ渡る人もいるし、研究とはまったく違う仕事を始める人もいる。

誰かの人生を見るたびに、「あんな道もあったのか」と思うことがあります。

そして、ときどき自分の選択と比べてしまう。

でも、同じ博士号を持っているからといって、その先まで同じである必要はありません。

博士号は、その先に進むべき道を指定するものではない。

それまで一つの世界を深く掘ってきたからこそ、博士号を取ったあとに初めて、自分の人生が思っていた以上に広かったことに気づく人もいるのだと思います。

博士号の先に道がないのではなく、道が多すぎる

「博士号を取ったあと、何をしたらいいのか分からない」

そう感じていると、自分だけが立ち止まっているように思えるかもしれません。

でも、何もない場所で途方に暮れているとは限りません。

目の前にいくつもの道が見えているから、簡単には一つを選べなくなっていることもあります。

博士号を取ったあとには、研究を続ける道もあります。企業へ行く道も、専門性を違う形で使う道も、研究から離れる道も、海外へ出る道もあります。

その中のどれか一つが「博士として正しい人生」なのではありません。

私も以前は、博士号の先に一本道がなくなることを不安に感じていました。

今は、その一本道がないこと自体が、博士号の先にある自由なのかもしれないと思っています。

ただ、自由であることと、簡単に選べることは同じではありません。

自分の人生を選んでいいと言われたときに、初めて「じゃあ私は、どう生きたいんだろう」という問いが現れることがあります。

そして、それは求人をたくさん見れば答えが出る問いでも、「博士に向いている仕事」を知れば消える迷いでもありません。

「このままでいい?」しか言えないときは

博士号の先には、思っていたよりたくさんの道があります。

それを知ってもなお、「じゃあ私はどこへ行きたいんだろう」が残っている人もいると思います。

研究を続けたいのかも分からない。転職したいと決めたわけでもない。海外に惹かれる理由も、自分ではうまく説明できない。

ただ、ときどき「このままでいいのかな」と思う。

そんな状態で、無理にキャリアの答えを作る必要はないと私は思っています。

実際に誰かと話してみると、最初に口にしていた悩みとは少し違うところに、自分がずっと引っかかっていたものが見つかることがあります。

「研究を続けるかどうか」で悩んでいたはずなのに、本当はここまで頑張った自分を否定することが怖かったのかもしれない。転職先が分からないと思っていたけれど、本当は仕事だけではなく、これからどんな生活をしたいのかまで一緒に迷っていたのかもしれない。

最初からそこまで言葉にできる人ばかりではありません。

むしろ、何を相談したらいいのかさえ分からないから、ずっと一人で考え続けてしまうこともあります。

Marin Career Labでは、そんな「このままでいい?」から始まるキャリアの迷いについて、実際に話していくと何が見えてくるのかを、こちらの記事に書いています。

研究職のキャリアに迷ったら|博士・転職・キャリアチェンジを考える

もし今、答えが欲しいというより、一度誰かと話しながら自分の中にあるものを整理してみたいと思っているなら、何を相談したらいいのか分からないままでも大丈夫です。

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ABOUT MARIN

Marin|PhD(医科学)・Career Mentor

PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。

Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。

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