研究者を目指して博士課程に進むと、多くの人が一度は向き合うことになるのが、通称「学振」の申請書です。
私はDC1に一度不採用になり、その後、DC2に再挑戦して面接免除で採用されました。
最初に申請したとき、筆頭著者の論文は1報もなく、国内学会での発表も3件ほどでした。さらに申請区分は腫瘍学関連で、臨床研究の論文を複数持つ医師なども申請する、競争の激しい分野でした。
DC1に落ちたときは、「もっと研究実績が必要だったのかな」とかなり考えました。
でも、次の申請までに論文実績だけを劇的に変えられるわけではありません。
そこでDC2では、自分がその時点で持っている研究を、どうすれば相手にきちんと伝えられるのかを徹底的に見直しました。
特に意識したのが、日本語の癖、文章の論理構成、研究の新規性の伝え方、そして研究計画の具体性です。
そのときに実際に参考にしたのが、この記事で紹介する本です。
何が面接免除採用の決定要因だったのかを自分で断定することはできません。それでも、DC1からDC2の間で「研究内容をどう相手に届けるか」という自分の視点が大きく変わったことは確かです。
この記事では、単におすすめ本を並べるのではなく、それぞれの本を私はどんなところで使い、申請書を見る目がどう変わったのかもあわせて紹介します。
学振とは?
学振(日本学術振興会特別研究員)は、若手研究者が研究に専念できる環境を支援する制度です。
博士課程在学者を対象とするDC1・DC2などがあり、採用されると研究奨励金が支給されます。また、研究計画を進めるための研究費として、科学研究費助成事業(特別研究員奨励費)に応募することもできます。
研究奨励金の金額や申請条件などは年度によって変更されるため、申請時には日本学術振興会の公式サイトで最新情報を確認してください。
☕ 学振の制度について
特別研究員の研究奨励金、社会保険、報酬の受給、奨学金との併用などのルールは、私が申請した当時から変更されています。
特に、現在は一定の条件下で報酬や一部の奨学金等を受け取れる場合もあります。申請・採用時には、日本学術振興会の最新の募集要項・手引を必ず確認してください。
まず、申請書そのものの「型」を知るために読んだ本
DC1に不採用になったあと、まず考えたのは、「そもそも研究費の申請書は、どういう考え方で組み立てればいいのか」ということでした。
博士課程では、自分の研究について考えたり、論文を読んだり、研究発表をしたりする機会はたくさんあります。でも、「研究について詳しく説明すること」と、「限られた紙面で、審査する人に研究の価値を伝えること」は同じではありません。
そこで、申請書全体の構成や、研究の意義・目的・計画をどう見せるのかを考えるうえで参考にしたのが、児島将康さんの『科研費獲得の方法とコツ』でした。
学振と科研費は同じ制度ではありませんが、研究費の申請書を「読む側の視点」から考えるための土台として、私はこの本を参考にしました。
この本を読んで大きかったのは、「自分の研究について詳しく書くこと」と「審査する人に研究の価値が伝わる申請書を書くこと」は、同じではないと意識するようになったことでした。
研究をしている本人には、研究背景も目的も、その実験をする理由もすべてつながって見えています。だからこそ、知っていることを丁寧に書けば、相手にも伝わるような気がしてしまいます。
でも、研究費の申請書には限られた紙面があります。その中で、なぜこの研究が必要なのか、何を明らかにしたいのか、そのためにどんな研究をするのかを、読む側が迷わず追えるようにしなければなりません。
私はこの本を通して、まず「申請書全体をどう見せるか」という視点を持つようになりました。
そして実際にDC1の申請書を読み返してみると、次に気になったのが、自分自身の文章の書き方でした。
必要なことは書いているはずなのに、なぜか一番伝えたいことがすぐに見えてこない。
ここから、文章の論理構成そのものを見直していくことになりました。
DC1のあと、まず見直したのは「文章の順番」でした
DC1の申請書をあとから読み返して、私がかなり気になったのが文章の論理構成でした。
一文一文を見れば、おかしなことを書いているわけではありません。研究背景を説明して、これまでに分かっていることを書いて、問題点を示して、最後に「そこで本研究では〜」と研究目的を書く。
自分では、とても自然な文章を書いているつもりでした。
でも、読む側の立場に立ってみると、結論にたどり着くまでが長い。
私はもともと、説明を積み重ねて最後に結論を置く文章を書きやすい癖がありました。いわゆる起承転結のように、前から順番に説明して最後に言いたいことへたどり着く文章です。
研究について詳しく書こうとするほど、この癖はさらに強くなりました。背景も例外も条件も知っているので、「これも説明しておかないと」と情報を足してしまうからです。
でも学振の申請書では、読む人が私の研究だけに時間をかけてくれるわけではありません。
DC2では、「必要なことを全部書いたか」だけではなく、「読み始めた人が、この段落では何を伝えたいのかを早い段階でつかめるか」を意識するようになりました。
💭 内容はちゃんと書いている。それなのに、なぜか伝わらない。
DC1のあとに気づいたのは、情報が足りないのではなく、「情報を置く順番」が原因になっている部分もあるということでした。
この自分の文章の癖を見直すうえで、特に参考になったのが倉島保美さんの『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」』です。
幼少から日本語で教育を受けていると、起承転結で文章を書くことに慣れている=つまり結論を後に回す文章・段落構成になっているので、これでは通用しません。自分の書く文章の癖に気づくことが大事です。
「新規性があります」と書く前に、研究の問いそのものを考え直した
次にDC1の申請書を見直していて気になったのが、研究の「新規性」をどう伝えるかでした。
研究をしている本人にとっては、「このテーマは新しい」「ここはまだ誰も明らかにしていない」ということが見えています。
でも、申請書に「本研究は新規性が高い」と書いたからといって、その新しさや重要性まで相手に伝わるわけではありません。
DC2では、珍しい分子を扱っている、新しい手法を使っている、といった表面的な新しさだけではなく、
「そもそも、なぜこの問いに答えることがサイエンティフィックに重要なのか」
まで考えるようになりました。
自分の研究テーマを長く見ていると、その研究が重要である理由まで自分の中では当たり前になってしまいます。だからこそ、一度テーマから少し離れて、「この問いが解けることで、何が新しく分かるのか」を考え直す必要がありました。
そのときに参考になったのが、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』です。
これは学振の攻略本ではありません。それでも、「何を研究するか」の前に、「そもそも何に答える価値があるのか」を考える視点は、学振申請書の新規性や研究の意義を見直すうえで、私にはかなり役立ちました。
研究計画は、「何をしたいか」ではなく「本当にできるか」まで考えた
研究計画について、DC1からDC2で私がかなり意識するようになったのが、「その計画を研究期間内に本当に遂行できるのか」という視点でした。
指導教員から示された大きな研究テーマを、そのまま申請書に書くだけでは足りません。
自分自身で、「この期間に何をするのか」「その結果から何が分かるのか」「次の実験へどうつなげるのか」まで考えるようにしました。
たとえば、「RNA-XXの機能を解明する」と書くだけなら簡単です。
でもDC2では、その一文を書いたあとに、
💭 では、実際に何を測るのか?
RNA発現を見るならqRT-PCRなのか。タンパク質量を見るならWestern blotなのか。タンパク質間の相互作用を調べるなら、co-immunoprecipitationなどを使うのか。
というところまで自分で落として考えました。
もちろん、申請書を細かな実験プロトコルにするという意味ではありません。
ただ、「解明する」「検討する」という言葉だけでは、その研究を本当に実行できるのかは相手には見えません。
私が意識したのは、審査者が研究計画を読んだときに、「この人は研究目的だけではなく、そこへ到達する実験まで具体的に考えている」と伝わる程度まで計画を落とすことでした。
この感覚を身につけるうえで参考になったのが、『なぜあなたの研究は進まないのか?』です。
🌿 Marinの独り言
「解明する」「検討する」って、研究者にとっては便利な言葉なんですよね。
でも申請書を書いているとき、私はこの言葉を見つけたら一度「で、どうやって?」と自分に聞くようにしていました。
それだけでも、研究計画の解像度はかなり変わりました。
この本は、学振申請書を書くときだけでなく、実際に研究を進めるときや、研究発表の前に頭の中を整理するときにも役立ちました。
目の前の実験に集中していると、「そもそも何を明らかにしたいのか」「次に何を確かめれば、この問いに答えられるのか」が見えにくくなることがあります。
そんなときに、一度研究全体を引いて眺めて、問いと実験のつながりを考え直す。私にとっては、研究発表のブレインストーミングにも使える一冊でした。
申請書ができたら、研究を知らない人にも読んでもらった
本を読みながら一通り申請書を書いたあと、私が実際にやってよかったと思っていることがあります。
それは、自分の研究テーマをよく知らない人にも原稿を読んでもらうことでした。
研究室の仲間や同じ分野の研究者に見てもらうことももちろん大切です。でも、同じ研究室にいる人は、こちらが書いていないことまで頭の中で補いながら読めてしまいます。
専門用語も知っているし、なぜこの実験をするのかも、ある程度分かっている。
だから私は、研究テーマをほとんど知らない人にも読んでもらいました。
すると、自分では何度読んでも気づかなかったところで、
💭 「ここから、どうしてこの研究目的になるの?」
「この実験をすると、結局何が分かるの?」
と止められることがありました。
これはかなり役に立ちました。
専門外の人に、研究そのものの良し悪しを判断してもらいたかったわけではありません。
その人が途中で分からなくなった場所には、「自分の頭の中にはあるけれど、申請書には書けていない論理」が隠れていることがあるからです。
学振の申請書には、当然たくさんの専門用語が出てきます。
専門用語をすべて簡単な言葉に変える必要はありません。それでも、初めてその研究を読む人が、「何がまだ分かっていなくて、この人は何を明らかにしようとしているのか」を頭の中でイメージできる文章にはできます。
DC1からDC2へ書き直したとき、私は原稿を一度完成させて終わりにはせず、何度も人に読んでもらい、そのたびに自分の文章へ戻りました。
🌿 Marinの独り言
何度も自分の原稿を読んでいると、途中から「もうどこが分かりにくいのか分からない」という状態になります。
そんなとき、私は相手から出てきた修正案そのものより、「どこで相手が止まったか」を見るようにしていました。
そこには、自分では見えなくなっている申請書の穴があることが多かったからです。
DC1からDC2で、申請書そのものをどう変えたのか
この記事では、私が学振申請書を書くときに実際に参考にした本と、その本から得た考え方を自分の申請書にどう使ったのかを紹介しました。
DC1不採用後、実際に申請書のどこを見直し、DC2の面接免除採用までに何を変えたのかは、こちらの記事に詳しくまとめています。
学振DC1・DC2申請書の書き方|DC1不採用→DC2面接免除採用した私が変えた7つのこと
自分の申請書になると、見えなくなることがあります
その後、私自身も研究者の申請書を添削したり、申請について相談を受けたりするようになりました。
そこで何度も感じたのが、研究内容を一番よく知っている本人だからこそ、「初めて読む人には何が伝わらないのか」が見えにくくなるということです。
研究の強みはあるのに、申請書の中ではそこが目立っていない。本人の頭の中では研究背景から目的まできれいにつながっているのに、その途中の一段が文章から抜けている。
こういうことは、実際に原稿を一緒に見てみないと分からないことがあります。
現在、Coconalaで学振申請書や研究者キャリアについての相談を受けています。
「まだ申請書が完成していない」「研究の強みがきちんと伝わっているか見てほしい」という段階でも大丈夫です。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。


コメント