30代女性研究者、結婚も仕事も諦めたくない。「私だけ人生が進んでいない」と感じた夜に
博士号を取る頃には、もう20代後半。
でも、その頃はまだ、あまり気にしていませんでした。
学位を取り、論文を書き、次のポジションを探して、新しい環境に移ったらそこで結果を出す。研究をしていると、目の前にはいつも「次」があります。
その一つひとつを越えることに夢中で、数年先の人生を立ち止まって考える余裕は、あまりなかったように思います。
そして就職して、さらに数年。
30代半ばが見えてきた頃、ふと周りの景色が変わっていることに気づきます。
久しぶりに会った友人が結婚している。子どもが生まれた人もいる。以前は仕事や旅行の話をしていたグループLINEに、赤ちゃんの写真が届くようになる。
もちろん、嬉しい。
大切な友人には幸せでいてほしいと思う。
それなのに、仕事から帰って一人で夕食を食べている夜、ふと考えることがあります。
「私は、仕事を頑張っていれば、人生のほかのことも自然についてくると思っていたのかもしれない」
仕事を選んだつもりなんてありませんでした。
結婚しないと決めたわけでもない。
ただ、自分にできることを増やしたくて、目の前の研究や仕事を一生懸命やってきただけです。
それなのに、ある日突然、
「私だけ、人生が進んでいないのではないか」
という焦りが出てくる。
この記事は、そんな気持ちを誰にも言えずにいる女性研究者に向けて書いています。
仕事を選んだつもりは、なかった
20代の頃、結婚は「いつか」の話でした。
今は研究を頑張る。まず学位を取る。そのあと就職して、せっかくここまで身につけた専門性を使ってみたい。
それは、家庭を捨てて仕事を選んだという決断ではありません。
そのときの自分がやりたいことを、その都度選んできただけだったと思います。
ところが30代になってから過去を見ると、不思議なことが起こります。
「あのとき、もっと結婚のことも考えていれば」
「研究ばかりしていたからなのかな」
「あの選択をしていなかったら、今頃は違ったのかな」
と、昔の自分を今の知識で採点し始めてしまう。
でも、26歳の自分には、35歳の景色は見えていません。
🌿 Marinの独り言
30代になって過去を見ると、「もっと早く気づけばよかった」と思うことがあります。
でも、その頃の自分には、その頃にしか見えていなかった世界があります。
今だから分かることを使って、昔の自分を責めなくてもいいと思うんです。
そして30代になると、結婚だけでなく、仕事そのものにも別の問いが出てくることがあります。
研究は好き。
でも、この働き方をこの先も続けたいのだろうか。
ここは、意外と別の話です。
研究が好きなことと、研究職として今の働き方を続けたいことは、必ずしも同じではありません。
この感覚については、こちらの記事でも書いています。
「研究が好き」なら、研究職を続けるべき?好きと仕事を分けて考えてもいい
結婚だけは、努力の延長線上にあるとは限らなかった
研究だって、努力したから必ず成功する世界ではありません。
何か月実験してもデータが出ないことはあるし、論文を書いても通らないことがあります。
それでも、研究には自分で動かせる部分があります。
調べることもできる。条件を変えることもできる。人に聞くこともできる。失敗したら、また別の仮説を考えられる。
博士号にも、一応は学位取得というゴールがあります。
就職なら求人を探して応募し、面接を受けるというプロセスがあります。
結果を完全にはコントロールできなくても、「次に何をするか」は考えられる。
研究や仕事の世界では、私はずっとそうやって生きてきました。
だからこそ、恋愛や結婚の不確実さに戸惑うのかもしれません。
結婚は、自分一人では成立しません。
博士号を取っても、仕事ができても、経済的に自立していても、自分が心から好きになれる人と出会い、その人も同じように自分を大切に思ってくれる保証はありません。
しかも、出会うだけでは足りない。
同じタイミングで、お互いが「この人と人生を一緒に歩きたい」と思わなければいけない。
研究には査読があります。
就職には採用基準があります。
でも恋愛には、「ここまで努力すれば愛されます」という合格ラインがありません。
努力によって人生を前へ進めてきた人ほど、ここで初めて、
「自分ではコントロールできないものが、人生にはある」
という事実の前に立ち止まることがあります。
周りの結婚が、急に気になり始める
友人の結婚が増えてくると、誰にも言いにくいことを考えることがあります。
みんな、本当に「この人」と思える人に出会ったのだろうか。
私は理想が高すぎるのだろうか。
もっと現実的になった方がいいのだろうか。
でも、結婚するために、好きでもない人を好きになることはできません。
結婚という状態だけが欲しいわけではないから、悩むのだと思います。
自分なりに勉強してきた。仕事も頑張った。経済的にも自立して、自分の人生を自分でつくろうとしてきた。
それでも、自分が心から好きになれる人に出会えるかどうかだけは分からない。
周りを見ても、答えはありません。
仕事も家庭も持って、とても幸せそうに見える人もいます。
結婚したあとに別の人生を選んだ人もいる。
独身でも、仕事や友人、趣味に囲まれて楽しそうに暮らしている人もいます。
でも、その人が夜ひとりになったとき何を思っているかまでは分かりません。
私たちが見ているのは、その人の人生のほんの一部分だけです。
🌿 Marinの独り言
他人の人生って、ときどき完成形に見えます。
でも、誰かの人生を外から見て「これが正解なんだ」と判断することはできません。
それよりも、「なぜ私はこの人を見てこんなに心が動いたんだろう」と自分に戻ってくる方が、ずっと大事なのかもしれません。
誰かの結婚報告を見て胸がざわついたとき、それをすぐに「嫉妬」と呼ばなくてもいいと思います。
その奥に、
「私も、愛する人と人生をつくりたい」
という、自分が忙しさの中で後回しにしてきた願いがあるのかもしれないからです。
「選ばれるため」に、自分のキャリアを小さくしたくない
そして恋愛や結婚を意識し始めると、もう一つ別の不安が出てくることがあります。
仕事では、もっと成長したいと思ってきた。
専門性を身につけたい。面白い仕事をしたい。海外にも行ってみたいし、自分がどこまでできるのか試してみたい。
そう思って頑張ってきたはずなのに、恋愛になると突然、その自分が不安になる。
仕事を頑張る女性は可愛くないのだろうか。
博士号があることを相手はどう思うのだろう。
自分の意見をはっきり言う女性より、もう少し相手に合わせられる人の方が結婚しやすいのだろうか。
そんなことを考えているうちに、
「誰かに選ばれるためには、今の自分を少し小さくした方がいいのではないか」
という考えまで出てくることがあります。
博士号のことはあまり言わない方がいいのかな。
仕事への野心を見せない方がいいのかな。
本当はまだ挑戦したいけれど、「そこまで仕事を頑張らなくてもいい」と言った方が、相手には安心されるのかな。
でも、そこで一度考えたくなります。
長い時間をかけて身につけた専門性を隠し、本当はやってみたいことまで先回りして諦めて、それで誰かに選ばれたとして。
それは、自分が本当に欲しかった結婚なのでしょうか。
もちろん、誰かと人生をつくるなら調整は必要です。
相手にも仕事があり、やりたいことがあり、大切にしたい人生があります。
二人で暮らすのだから、自分の希望だけを100%通すことはできません。
でも、二人で話し合って調整することと、愛されるために自分を小さくすることは、同じではないと思います。
反対に、「私は仕事を頑張る女性だから」と、本当は欲しいものまで欲しくないふりをする必要もありません。
結婚したい。
愛する人と暮らしたい。
家庭も持ちたいかもしれない。
でも、仕事も諦めたくない。
その全部が自分の中にあっていいと思います。
「研究しかしてこなかった」わけではない
ここで、仕事そのものへの迷いも重なってくる人がいます。
結婚やこれからの生活について考え始めたことで、
「そもそも私は、この働き方をこの先も続けたいのだろうか」
という問いまで出てくる。
そして研究職以外を調べ始めると、今度は別の不安が出てきます。
「私は研究しかしてこなかった」
「この専門以外に何ができるんだろう」
長く一つの研究分野にいるほど、こう感じやすいと思います。
でも、研究の中で当たり前に使ってきた力は、研究テーマの名前だけではありません。
そのことについては、こちらの記事で詳しく書いています。
「研究しかしてこなかった」私に何ができる?研究職から転職するときの強みの見つけ方
博士のキャリアも、研究を続けるか、すべて捨てて全く違う仕事をするか、という二択ではありません。
専門性をそのまま使う仕事もあれば、研究で身につけた考え方を別の場所へ持っていく仕事もあります。
☕ 博士として、この先の進路そのものを広く見たい方へ
研究職を続けるか、研究職以外へ行くか。これまで積み上げた専門性をこれからどこで使うのかまで含めて、博士の転職・キャリアチェンジについてまとめています。
結婚や家庭を考え始めたから、仕事を諦める。
仕事を頑張りたいから、家庭を諦める。
最初からその二択にしてしまわなくてもいいと思っています。
自分が何を持っていて、それをどこで使えるのかを知ることで、働き方の選択肢が増えることもあるからです。
誰かの正解ではなく、「私は何を諦めたくない人なのか」
ここまで書いても、結局のところ未来の答えは分かりません。
キャリアを頑張れば、最後には仕事も家庭も全部手に入るとは言えません。
「焦らなくて大丈夫」とも、簡単には言いたくありません。
焦るものは、焦ります。
友人の結婚報告を見て胸がざわつく夜もあるし、「私もいつか」と思いながら、その「いつか」が本当に来るのか怖くなることもあります。
だから、その焦りを無理に消さなくてもいいと思っています。
むしろ、
「私は、なぜこんなに心が動いているんだろう」
と考える材料にしてもいい。
仕事をまだ頑張りたい。
好きな人と生きたい。
家庭も持ちたいかもしれない。
自分の自由も大切にしたい。
人間の願いは、そんなにきれいには整理できません。
全部が叶う保証もありません。
でも、手に入らないかもしれないという理由だけで、まだ始まってもいない未来から先に何かを捨てる必要もないと思っています。
🌿 Marinの独り言
私は、「きっと全部うまくいく」と言いたいわけではありません。
人生には、自分の努力だけではどうにもならないことがあります。
それでも、本当に欲しいものを「欲しい」と認めることまで諦めなくていい。
そのうえで、今の自分はどんな人生をつくっていきたいのかを考えることはできます。
30代になって感じる焦りは、
「人生に遅れてしまった」
という証拠ではないのかもしれません。
これまで研究や仕事に向けてきた真剣さを、これからは自分自身の人生にも向ける時期が来た。
私は、そんなふうにも考えています。
「キャリアか、結婚か」と最初から二つに分けるのではなく、
私は何を諦めたくない人なのか。
そこから、自分の人生を考えていってもいいと思います。
まだ答えを決めずに、もう少し考えていたい方へ
仕事も大切にしたい。
結婚や家庭についても考えたい。
でも、その二つを今すぐどちらかに決めることはできない。
そんな状態でもいいと思っています。
Marin Career Labでは、このブログのほかにThreadsとInstagramでも、博士・研究者のキャリアや、専門性を持つ人の働き方について発信しています。
Threadsでは、「このままでいいのかな」「仕事を頑張りたい。でも人生も置いていきたくない」といった、研究者の日々の迷いやキャリアについて考えたことを中心に書いています。
Instagramでは、海外のPhDキャリアやAI、研究・産業・政策の変化など、普段の研究生活だけではなかなか入ってこない、新しい働き方や専門性の使われ方を紹介しています。
新しい記事や、博士・研究者のキャリアについての情報を受け取りたい方は、LINEにも登録しておいてください。
一人で考えているうちに、何に悩んでいるのか分からなくなったら
キャリアの悩みと、結婚やこれからの人生についての迷いは、きれいに分けられないことがあります。
「転職したい」のか、「働き方を変えたい」のか。
結婚への焦りなのか、このままの人生への不安なのか。
最初から分かっていなくても大丈夫です。
研究者のキャリアに迷ったとき、人に話すことで何が見えてくるのかについてはこちらにも書いています。
研究職のキャリアに迷ったら|「このままでいい?」と思ったときに
もし一人で考えることに少し疲れて、誰かと話しながら整理したくなったときは、Marinでも1対1の相談を受けています。
まだ整理できていないところからMarinに話してみる|Coconala
継続してキャリアや働き方を一緒に考えたい方はこちらです。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。



コメント