自分の強みがわからない研究者へ|研究経験から「転職で使える強み」を見つける方法

Career & Life

「研究しかしてこなかった」私に何ができる?研究職から転職するときの強みの見つけ方

「研究以外に、私に何ができるんだろう」

研究職から違うキャリアを考え始めたとき、この問いで止まってしまう人がいます。

博士号はある。何年も研究してきた。専門分野についてなら話せるし、論文も書いた。学会発表もしてきた。

何もしてこなかったわけではありません。

それなのに、転職サイトを開いて、自分の経験を研究室の外の仕事に当てはめようとした瞬間、急に何も持っていないような気がしてくる。

専門知識をそのまま使わない仕事になったら、自分には何が残るんだろう。

研究しかしてこなかった自分を、研究室の外で必要としてくれる場所なんてあるのだろうか。

さらに、研究者として自信をなくしている時期だと、

「同期の方が論文を出している」

「私は研究者として特別優秀だったわけでもない」

という気持ちまで一緒に出てきます。

すると、最初は「研究職から転職できるだろうか」という話だったのに、いつの間にか、

「そもそも私には、何か価値があるんだろうか」

というところまで来てしまう。

でも、私はここに少し不思議なことがあると思っています。

博士まで何年もかけて一つのことに取り組んできた人が、本当に「研究以外では何もできない」のでしょうか。

「研究しかしてこなかった」の、「しか」

研究者の方とキャリアの話をしていると、

「私は研究しかしてこなかったので」

という言葉が出てくることがあります。

私は、この「しか」がずっと気になっています。

研究室にいると、周りも研究者です。

英語の論文を読むことも、知らない分野を調べることも、データを見ながら議論することも珍しくありません。

答えのないところから仮説をつくることも、何か月も結果が出ない中で原因を探し続けることも、「研究をしていれば普通」に見えてきます。

昨日まで正しいと思っていた仮説を、データを見て捨てることもある。

自分の専門を知らない人に、どこから説明すれば伝わるのかを考えることもある。

研究室の中では、どれも仕事の一部です。

だから本人は、それを能力として数えません。

「そんなの研究者なら誰でもやっているでしょう」

と思ってしまう。

でも、周りに同じことができる人しかいない環境に長くいると、自分の「普通」の基準は少しずつ変わっていきます。

できることはある。

ただ、それが自分には当たり前すぎて、強みとして見えなくなっている。

研究者が自分の強みを見つけにくい理由の一つは、ここにあると思っています。

🌿 Marinの独り言

長く同じ世界にいると、「周りもできる=世の中の誰でもできる」に見えてしまうことがあります。

でも、研究室の中の普通と、研究室の外の普通は、必ずしも同じではありません。

研究がうまくいかなかったことと、「自分には強みがない」は同じだろうか

もう一つ、「私には強みがない」という言葉には、ときどき別の気持ちが混ざっています。

研究者として、思っていたほど評価されなかった。

同期の方が論文を出している。

自分より若い人が、先に次のポジションを取った。

何年も研究したのに、期待していたほど成果が出なかった。

そんな経験が重なると、

「研究が思うようにいかなかった」

という話と、

「私は能力がない」

という話が、いつの間にか同じものになってしまうことがあります。

研究の世界に長くいるほど、研究者としての評価と、自分自身の評価が近くなりやすいからです。

論文が出ないと、自分が足りない。

研究費が取れないと、自分が足りない。

次のポジションが決まらないと、自分が足りない。

でも、ある研究テーマで期待した成果が出なかったことと、その人に能力がないことは同じではありません。

アカデミアの評価軸で高く評価されなかったことと、別の環境でも価値を出せないことも同じではありません。

長く一つの世界にいると、その境目が見えにくくなります。

「私には強みがない」と思っていたけれど、本当は研究者として自信をなくしていただけだった。

そんなこともあると思います。

場所が変わって、初めて「これは普通じゃなかったんだ」と気づく

私は博士課程で研究をしたあと、製薬企業で創薬研究に携わり、その後Harvardでも研究しました。

環境が変わるたびに、少し面白いことがありました。

自分では「研究をしていたら普通でしょう」と思っていたことが、場所が変わると、必ずしも普通ではなかったんです。

知らない領域について短い時間で調べて、どこが重要なのかをつかむ。

情報が十分にない状態でも、「今分かっていること」と「まだ分からないこと」を分けて考える。

誰かが言っていることをそのまま受け取らず、「その根拠は何だろう」と一度立ち止まる。

うまくいかないときに、すぐ諦めるのではなく、「どこがおかしいんだろう」と考える。

研究をしていた頃の私は、こういうものを自分の強みだとは思っていませんでした。

研究するために必要だったから、ただやっていただけです。

でも、環境が変わると評価されるものも変わります。

反対に、研究室ではとても重要だったものが、別の場所ではそれほど重要ではないこともあります。

そこで私は、強みというのは、自分だけを眺めていても分からないことがあるのだと思うようになりました。

何ができるかだけではなく、

それをどこに置くか。

そこまで変わると、同じ経験の意味まで変わるからです。

同じ博士でも、同じ強みではない

だから私は、

「博士にはこういう強みがあります」

という説明だけでは、少し足りないと思っています。

もちろん、長く研究してきた人に共通しやすい経験はあります。

でも、博士号を取ったら全員が同じ人間になるわけではありません。

たとえば、実験が半年うまくいかなかったとします。

ある人は、関連する論文を大量に読み、考えられる原因を一つずつ調べるかもしれません。

別の人は、自分だけで抱え込まず、その実験に詳しい人を探して話を聞きに行くかもしれない。

また別の人は、条件を少しずつ変え続けるより、「そもそも、この仮説が違うのではないか」と前提から考え直すかもしれません。

同じ出来事でも、そのとき何を見て、何を考え、どう動くのかは人によって違います。

私は、その違いの中にその人らしさが出ると思っています。

しかも本人には、それがあまりにも自然なので見えません。

「分からなかったら論文を読むのは普通ですよね」

「詳しい人に聞いた方が早くないですか」

「データがおかしかったら、仮説から疑いませんか」

本人はそう言う。

でも、それは本当に全員が同じようにすることなのでしょうか。

研究室の外でも、同じように自然にできる人ばかりなのでしょうか。

自分の強みは、「できること」だけでなく、「困ったときに自然にどう動く人なのか」にも現れると思っています。

「論理的思考力があります」だけでは、その人が見えない

転職活動では、自分の強みを言葉にする場面があります。

そこで「論理的思考力」「問題解決力」「コミュニケーション能力」といった言葉を使いたくなることがあります。

もちろん、それ自体が間違っているわけではありません。

ただ、その言葉だけでは、その人がほとんど見えません。

「問題解決が得意です」と言われたとき、その人は問題が起きると何をするのでしょうか。

まず状況を整理する人なのか。

人に聞きに行く人なのか。

小さく試してみる人なのか。

そもそもの前提を疑う人なのか。

そこまで聞いて初めて、その人が見えてきます。

研究室では「細かすぎる」と言われていた人が、違う場所では「この人に任せれば抜けがない」と頼られることがあります。

何かを決める前に「本当にそうだろうか」と考えてしまう人が、ある環境では慎重すぎると言われても、別の仕事ではその姿勢が重要になるかもしれません。

知らないことがあると、納得するまで調べないと気が済まない。

人の話を聞きながら、頭の中で勝手に構造を整理してしまう。

研究室では特別なことではなかった行動が、違う場所では特徴になることがあります。

だから、「私の強みは何ですか」だけでは少し足りない。

私はどんな場面で、どんなふうに動く人なのか。

そして、それはどんな場所なら価値になるのか。

そこまで見て、初めてキャリアにつながってくるのだと思います。

☕ その経験を、企業ではどう伝えるのか気になる方へ

HarvardのCareer Fairに参加したとき、PhDの企業就職では、研究内容だけでなく「なぜその仕事をしたいのか」「自分は会社に何を提供できるのか」を、自分自身のストーリーとして伝えることが重視されていました。

HarvardのCareer Fairで知った、PhDが企業就職で求められること

博士という肩書きを外したら、何が残るんだろう

研究職から違うキャリアを考えるとき、この怖さが出てくることがあります。

研究テーマを外したら。

専門知識を直接使わなくなったら。

今いる大学や研究機関を離れたら。

自分には、何が残るんだろう。

私は、この怖さは「強みが分からない」という言葉より、少し深いところにあると思っています。

何年もかけて専門性を積み上げてきたからこそ、それをそのまま使わない世界へ行くのが怖い。

自分の専門を外したら、市場価値までなくなるような気がする。

だから研究以外の求人を見ても、

「この仕事に博士号は生かせますか」

「私の専門は使えますか」

と考えてしまう。

実際に求人を見るほど、自分が応募できる仕事がないように感じることもあります。

その感覚については、こちらの記事で詳しく書いています。

博士の転職は難しい?求人を見るほど「応募できる仕事がない」と感じるときに

でも、私は専門性を「使うか、捨てるか」の二択で考えなくてもいいと思っています。

研究テーマそのものを仕事にしなくなっても、研究を通じて身についた考え方や判断の仕方まで消えるわけではありません。

専門知識をかなり直接使う仕事もあるし、少し距離を置いて使う仕事もある。

研究そのものから離れても、科学や技術を理解することが価値になる場所もあります。

海外では、物理やphysical sciencesのPhDを持つ人が米国務省で政策に関わる仕組みもあります。

物理学の研究を続ける仕事ではありません。

でも、科学技術を理解し、その意味を政策の世界につなげられる人が必要だから、そこにPhDの席があります。

物理PhDが米国務省へ。海外では博士の専門性はどう使われている?

同じ専門性でも、置く場所によって使われ方は変わります。

研究室を離れることと、それまで積み上げたものを全部捨てることは、同じではありません。

🌿 Marinの独り言

私は最近、「専門性を捨てる」というより、「専門性を置く場所を変える」と考える方がしっくりきています。

場所を変えたときに初めて、自分が本当に持っていたものが見えることもあります。

自分の強みは、自分一人では見えにくい

自分のことなのだから、自分が一番よく分かっているはず。

そう思うかもしれません。

でも強みについては、逆のことがあります。

何年も自然にやってきたことほど、自分には普通に見えるからです。

誰かから、

「どうして、そのときそうしたの?」

と聞かれて初めて、

「そういえば、私はいつもこうするな」

と気づくことがあります。

「それって本当に誰でもできる?」

と聞かれて、初めて考える。

「研究テーマが変わっても、そのやり方は残らない?」

と言われて、ようやく研究と自分自身を少し離して見られることもあります。

本人が失敗だったと思っている出来事に、その人らしさが出ていることもあります。

「ただやっただけ」と話していたことが、実は何度も繰り返している得意な行動だったりする。

研究者として評価されなかった部分が、次の環境では価値になることもあります。

だから私は、「あなたの強みはこれです」と能力名をつけることより、その人が実際に歩いてきた経験を一緒にたどる方が大事だと思っています。

最初は、

「研究しかしてこなかった」

と話していた人の経歴が、話しているうちに少し違って見えることがあります。

研究しかしてこなかったのではなく、

自分が研究の中で何をしてきた人なのかを、まだ研究室の外から見たことがなかった。

それだけなのかもしれません。

「私には何もない」と思っているなら

研究職を離れることを考えた途端、自分には何の強みもないように感じる。

それだけで、

「やっぱり研究に残った方がいいのかな」

と思ってしまうことがあります。

でも、研究以外で自分に何ができるのか分からないことと、本当に何もできないことは同じではありません。

今いる場所では当たり前すぎて、見えていないものがあるかもしれない。

今の評価軸では価値が見えなかったものが、違う場所では意味を持つかもしれない。

研究者という肩書きを外したら何も残らないのではなく、これまでその肩書きを外して自分を見たことがなかっただけなのかもしれません。

もし今、

「研究しかしてこなかった自分に、次なんてあるのかな」

と思っているなら、これまでの何年間かを「研究」という一言だけで片づけなくてもいいと思います。

そこには、その人にしかない経験があります。

研究内容だけではなく、困ったときに何をしたのか、何を大切にしてきたのか、何度も自然にやってきたことは何なのか。

その中に、次の場所へ持っていけるものが残っていることがあります。

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「私の場合は何があるんだろう」と思った方へ

研究者全員に共通する「正しい強み」があるわけではありません。

同じ博士号を持っていても、歩いてきた研究も、困ったときの動き方も、これから大切にしたいものも違います。

だから、自分の経験を一人で研究室の外の言葉に置き換えるのが難しいこともあります。

もし、

「研究しかしてこなかったように感じる」

「自分の経験が、研究以外でどう使えるのか分からない」

というところから、一度話しながら整理してみたい方は、Marinでも1対1の相談を受けています。

まだ言葉になっていない強みからMarinと話してみる|Coconala

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ABOUT MARIN

Marin|PhD(医科学)・Career Mentor

PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。

Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。

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