「研究が好き」なら、研究職を続けるべき?好きと仕事を分けて考えてもいい
研究職を離れることを考えていたはずなのに、面白い論文を読むと、やっぱり研究って面白いなと思う。
誰かと研究の話をしているうちに夢中になって、気づけばずいぶん時間が経っていることもあります。
ずっと分からなかったことがつながれば嬉しいし、予想していなかったデータが出れば、その先を知りたくなる。
そんな瞬間が来るたびに、少し困るのです。
「ほら。やっぱり私は研究が好きじゃないか」
だったら、研究職を続ければいい。
自分でもそう思います。
それなのに、この先もずっと研究職として働いている自分を想像すると、なぜか迷いなく「そうしたい」とは言えない。
研究が嫌いになったのなら、もっと簡単だったのかもしれません。
でも、嫌いではない。
むしろ、今でも好き。
研究が好きなのに研究職を辞めたいと思う私は、いったい何に迷っているんだろう。
この記事では、「研究が好き」という気持ちと、「研究職を続けたい」という気持ちは本当に同じなのかを考えてみたいと思います。
- 研究が面白い日は、「辞めたい」が間違いだったように思える
- 「研究が好き」と「研究職として働きたい」は、同じなのだろうか
- 研究職を辞めたら、「研究を好きだった自分」までなくなる気がする
- 好きなものとの関係が変わることは、嫌いになることではない
- 私も、「研究者ではない自分」をうまく想像できなかった
- それでも、研究職を辞めたら後悔するかもしれない
- 「研究を辞めたい」と「まだ研究者でいたい」は同時にあっていい
- 研究職以外へ行くことは、研究を捨てることなのか
- 研究を好きでいることと、研究者であり続けることは、同じ約束ではない
- 「研究は好き。でも……」の先を、まだ決めなくてもいい
- Marin Career Labをもう少し追ってみたい方へ
- 「研究は好き。でも、この先は分からない」と感じている方へ
研究が面白い日は、「辞めたい」が間違いだったように思える
研究職を辞めたい、あるいは違うキャリアへ行きたいと思っていても、研究はときどき猛烈に面白くなります。
何週間も分からなかったことが、ある瞬間につながる。
予想とは違う結果が出て、その理由を考えているうちに、また次を試したくなる。
誰かとの議論から新しい仮説が生まれて、「これ、面白いかもしれない」と久しぶりに心が動く。
そういう日は、
「やっぱり私は研究を続けたいのかもしれない」
と思います。
ところが数日後には、また研究職ではない人生が頭をよぎる。
この往復が苦しいのは、どちらかが嘘だからではなく、どちらも本当だからなのだと思います。
研究が面白いという気持ちは本物。
でも、この働き方をこの先も続けたいかと聞かれると迷う。
以前の私は、この二つが同時に存在すること自体がおかしいように感じていました。
研究が好きなら、研究者を続けたいはず。
そう思っていたからです。
「研究が好き」と「研究職として働きたい」は、同じなのだろうか
研究を長く続けていると、「研究が好き」という気持ちは、少しずつ職業や自分自身と結びついていきます。
分からないことを考えるのが好きだった。
新しいことを知ると誰かに話したくなった。
予想とは違う結果が出ても、それはそれで面白くて、なぜだろうと考え続けた。
そんな時間を何年も重ねているうちに、「研究する人」は単なる職業ではなくなっていきます。
自分が何を面白いと思う人間なのか。
どんなことに時間を使ってきたのか。
何を大切にしてきたのか。
その全部を「研究者」という言葉が少しずつ引き受けるようになる。
だから研究職を辞めることを考えたとき、仕事を一つ変えるだけには思えなくなることがあります。
研究者ではなくなった私は、何者になるんだろう。
研究を仕事にしていないのに、「研究が好き」と言っていいのだろうか。
学会へ行ったり、論文について議論したり、面白いデータを見て興奮したりする世界から、自分だけが少しずつ遠ざかってしまうのだろうか。
そう考えているうちに、
「研究職を離れること」と「研究そのものを失うこと」
が、ほとんど同じものに見えてくる。
でも、本当に同じなのでしょうか。
研究職を辞めたら、「研究を好きだった自分」までなくなる気がする
研究が本当に好きだった人ほど、この怖さは大きいと思います。
研究職を離れれば、研究との距離は実際に変わるでしょう。
毎日のように読んでいた論文を、以前ほど読まなくなるかもしれない。
周囲で飛び交っていた研究の話も、日常から少しずつ減るかもしれません。
久しぶりに昔の研究仲間と会ったとき、自分の知らない話題が増えていることに気づく日もあるでしょう。
寂しいと思うかもしれない。
私は、ここを「研究職を辞めても研究は好きでいられるから大丈夫」ときれいに片づけたくありません。
好きだった世界との距離が変われば、寂しいこともあると思うからです。
誰かが面白い論文を出したと聞いて、「自分もまだあちら側にいたかった」と思うかもしれない。
昔なら自分も参加していたような議論を外から見ながら、
「続けていたら、私は今ごろ何を研究していただろう」
と考える日が来るかもしれません。
好きだったのだから、離れたあとに何も感じない方が不思議です。
でも、
「離れたら寂しい」
ということと、
「だから研究職を続けなければならない」
ということは、同じではないと思っています。
好きなものとの関係が変わることは、嫌いになることではない
何かから離れるとき、私たちは分かりやすい理由を欲しくなることがあります。
嫌いになった。
向いていなかった。
もう興味がなくなった。
そう言えれば、離れることにも説明がつくからです。
でも人生では、好きなまま距離が変わるものもあります。
大切だった場所から引っ越すこともあるし、大好きだったことを仕事ではなく趣味に戻すこともあります。
その価値がなくなったわけではありません。
自分との関係が変わっただけです。
研究も同じかもしれません。
毎日の仕事として研究しなくなっても、新しい発見を面白いと思う自分は残るかもしれない。
論文を読んでワクワクすることもある。
研究者と話したときに、「やっぱりこの世界が好きだな」と思うこともあるでしょう。
反対に、思っていたより研究から離れていく自分に気づくかもしれません。
それも、今は分かりません。
ただ、職業との関係が変わったからといって、過去に研究を好きだった自分まで書き換える必要はないと思うのです。
🌿 Marinの独り言
「研究を辞める」という言葉は、ときどき大きすぎる気がします。
辞めるというより、研究との距離が変わる。
そう考えると、少しだけ別の景色が見えることがあります。
私も、「研究者ではない自分」をうまく想像できなかった
私はPhDを取り、製薬企業で創薬研究を経験し、Harvardでも研究しました。
研究がうまくいかなくて苦しかった時間もありましたが、それ以上に、研究が面白くて仕方がなかった瞬間もたくさんあります。
だからキャリアについて考え始めたとき、
「研究を離れたら、今までの自分とは別の人になるのではないか」
という感覚がありました。
でも、環境を変えて気づいたことがあります。
研究者という肩書きだけが、自分を研究好きにしていたわけではありませんでした。
分からないものを見ると知りたくなる。
人の面白いアイデアを聞くと、その先を考えたくなる。
誰かが何かを断言すると、「本当にそうだろうか」と根拠を知りたくなる。
複雑なものを見ると、どういう構造になっているのか理解したくなる。
そういうものは、肩書きが変わった瞬間に消えるわけではありません。
研究を始める前から自分の中にあったものもあるし、長く研究したことで自分の一部になったものもあります。
研究職から離れることと、「研究を好きだった自分」を捨てることは、同じではない。
私は少しずつ、そう思えるようになりました。
そしてこれは、研究者として身につけたものを、研究室の外でどう使うかという話にもつながります。
「専門を使わない仕事へ行ったら、自分には何が残るんだろう」と感じる方には、こちらの記事も近いと思います。
「研究しかしてこなかった」私に何ができる?研究職から転職するときの強みの見つけ方
それでも、研究職を辞めたら後悔するかもしれない
ここまで考えても、怖さが全部なくなるわけではありません。
研究職を辞めたら、やっぱり研究が恋しくなるかもしれない。
もう少し続けていたら面白いところまで行けたのではないか、と考える日もあるでしょう。
研究者として生きている昔の仲間を見て、羨ましくなることだってあると思います。
でも私は、
「後悔する可能性がある=その選択は間違っている」
とは思いません。
人生で何か一つを選ぶと、選ばなかった方の人生は残ります。
本当に大切だったものなら、ときどきそちらを想像することもある。
それは、その選択が失敗だったという意味ではありません。
研究が好きな気持ちを残したまま、別の道を選ぶ人もいます。
反対に、一度は研究職を辞めることを考えたからこそ、
「それでも私は研究者として生きたい」
と気づく人もいます。
どちらでもいいのだと思います。
大切なのは、「研究が好き」という一つの気持ちだけに、その先の人生すべてを決めてもらわないことです。
研究を続けたいのか。
研究という仕事ではなく、研究をしている時間が好きなのか。
研究者という自分を失うのが怖いのか。
今の働き方に疲れているのか。
研究以外の世界も見てみたいのか。
そこには、「研究が好きか嫌いか」だけでは説明できないものがあります。
「研究を辞めたい」と「まだ研究者でいたい」は同時にあっていい
特にポスドクやアカデミアにいる人の場合、
「もうこの生活は続けたくない」
という気持ちと、
「でも、研究者としてもう少し認められたかった」
という気持ちが同時に残ることがあります。
これは矛盾しているように見えます。
でも、どちらかが嘘とは限りません。
研究職を離れたい。
でも、ここで終わるのは悔しい。
企業にも興味がある。
でも、研究者として成功できなかったから企業へ行くようには思いたくない。
そんな気持ちについては、こちらの記事で詳しく書いています。
ポスドクを辞めたい。でも研究者として「負けた」気がして離れられないときに
そして、
「研究職を辞めること自体が負けのように感じる」
という気持ちについてはこちらです。
研究職を辞めたら負け?「ここまで頑張ったのに」と思ってしまう人へ
研究への未練があるからといって、必ず残るべきだとは限りません。
未練の中に何があるのかを見ることで、初めて「私はこれからどうしたいのか」が分かることがあります。
研究職以外へ行くことは、研究を捨てることなのか
研究職を離れることを考え始めると、
「では、研究以外で何をするの?」
という問題が出てきます。
ここで再び怖くなる人もいると思います。
博士まで一つの分野を研究してきたのに、それを直接使わない仕事へ行ったら、この何年間は無駄になるのではないか。
でも、博士のキャリアは、
「専門をそのまま使う研究職」
と、
「研究とはまったく関係のない仕事」
の二つだけではありません。
専門知識をかなり直接使う仕事もあれば、少し距離を置いて科学や技術を扱う仕事もあります。
研究で身につけた考え方を、事業や政策、別の専門家との橋渡しに使うこともあります。
研究職ではなくても、研究との距離がゼロになるとは限りません。
博士の転職や研究職以外の進路について、もう少し広く見たい方はこちらにまとめています。
博士の転職は難しい?求人を見るほど「応募できる仕事がない」と感じるときに
☕ Marinのひとこと
「研究職を辞めたら、研究と無関係になる」と思っていると、選択肢は二つに見えます。
でも実際には、その間にかなり広い世界があります。
研究を好きでいることと、研究者であり続けることは、同じ約束ではない
研究が好き。
その気持ちは、そのままでいいと思います。
研究職から離れたいと思ったことがあるからといって、これまでの情熱が嘘になるわけではありません。
反対に、研究が好きだからといって、その気持ちを証明するために研究者であり続けなければならないわけでもない。
私は長い間、この二つを同じものとして考えていました。
だから研究職ではない未来を考えるたびに、好きだったものを裏切ろうとしているような気がした。
でも今は、好きなものとの関係は人生の途中で変わってもいいと思っています。
研究を人生の中心に置き続ける人もいる。
研究から少し離れた場所で、科学や技術に関わり続ける人もいる。
仕事からは離れても、ずっと研究を好きでいる人もいる。
一度離れて、また戻る人だっているかもしれません。
研究を好きでいることと、研究者であり続けることは、同じ約束ではありません。
もし今、
「研究は好きなんです。でも……」
という言葉の続きを自分でもうまく言えないなら、迷っているのは研究への気持ちそのものではないのかもしれません。
「研究は好き。でも……」の先を、まだ決めなくてもいい
研究職を続けるか。
転職するか。
最初から二択にする必要はないと思っています。
研究が好きなのに、別の仕事が気になる。
今の働き方には疑問があるけれど、研究そのものは手放したくない。
研究者ではなくなる自分をまだ想像できない。
そこまでしか分かっていなくてもいい。
そもそも本当に転職したいのか、自分でもまだ分からないという人には、こちらの記事の方が近いかもしれません。
研究職から転職したい。でも「本当に辞めたいの?」と聞かれると分からない
仕事だけではなく、生活やこれからの人生まで全部一緒になって迷っている方はこちらにも書いています。
研究職のキャリアに迷ったら|「このままでいい?」と思ったときに
答えを出す前に、外の世界を知るだけでもいい。
研究職以外の働き方を見たあとで、それでも研究を続けたいと思うかもしれません。
反対に、「研究は好きなままでいい」と思えたことで、初めて別の道を見られるようになることもあります。
結論を急ぐよりも、
「私は研究の何が好きだったんだろう」
「そして、これからどんな形ならそれを自分の人生に残したいんだろう」
と考えてみる。
そこからでもいいと思います。
Marin Career Labをもう少し追ってみたい方へ
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「研究は好き。でも、この先は分からない」と感じている方へ
研究を辞めると決めてから相談する必要はありません。
研究を続けると決める必要もありません。
「研究は好き。でも、このまま研究職を続けるのかは分からない」
その状態のまま話して大丈夫です。
一人で考えていると、「研究が好きなのだから残るべき」「辞めたいと思うなら研究が嫌いなはず」と、いつの間にか二択になってしまうことがあります。
その間にある気持ちを、誰かと話しながら整理したいときは、Marinでも1対1の相談を受けています。
まだ答えが出ていないところからMarinと話してみる|Coconala
継続してキャリアや働き方を一緒に考えたい方はこちらです。
ABOUT MARIN
Marin|PhD(医科学)・Career Mentor
PhD(医科学)取得後、製薬企業での創薬研究、Harvard Medical Schoolでの研究を経験。現在もライフサイエンス領域で仕事をしています。
Marin Career Labでは、博士号取得後のキャリア、研究職からの転職、30代のキャリア、若手研究者の進路や学振などについて発信しています。


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